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優しい上司だけれど
第二章

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「真喜志さんはマーシャルアーツ世界チャンピオンでして」
「えっ、マーシャルアーツって」
「アメリカ軍の格闘技です」
「そうですよね」
「それだけに実戦的なものでして」
「色々殺人技もありますね」
「はい、それでこの街のジムでも護身術を教えてくれていて」
 黒人の大男である店員はさらに話してくれた。
「私もしていますが」
「それでもですか」
「全く敵わないんですよ」
「貴方でもですか」
「これでも身体の黒帯なんですがね」
 その体格に加えてというのだ。
「それでもです」
「それはまた」
「あの、スポーツをしているだけなので」
 美優は笑って話した。
「気にされることはです」
「ありますよ、先生でもありますから」
 店員は美優に畏まって答えた。
「ですから」
「それで、ですか」
「礼儀正しくです」
「ジムの中でもそこまでされなくていいです」
「そう言う訳にはいきません」
 畏まったままだった、店員ば美優に話した。そうしてだった。 
 勘定が終わって店を出てだ、林は隣にいる美優に話した。
「あの」
「ですから別に何でもないです」
「マーシャルアーツの世界チャンピオンだなんて」
「格闘技はスポーツです」
「そうですか」
「自分の身体を鍛え健康にする。護身でもありますが」
 それでもというのだ。
「そういうものなので」
「何でもないですか」
「私は私ということで」
「マーシャルアーツは関係ないですか」
「そう思われて下さい」
「そうですか」
「はい、これからも」 
 笑顔で言うのだった、そしてだった。
 いつもの優しい仕草で手を振って別れようとした、しかし。 
 林はその彼女にだ、こう言った。
「駅まで送ります」
「そうしてくれますか」
「いつも通り」
「そうですか。ではお願いします」
「はい、こちらこそ」
 美優のことは聞いた、だがそれでもだった。
 彼女がどういった人かは再認識出来た、それでこれまで通りだった。
 林は美優に接した、そうして彼女を駅まで送ってそこで別れた。次の日からも優しい彼女に教えてもらって頑張った。その関係は変わらなかった。美優が優しい上司であったので。


優しい上司だけれど   完


                     2022・4・24
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