第二章
[8]前話
「一体な」
「秘密じゃなかったら教えてくれるか」
「足」
義也はご飯をめざしで食べつつ答えた。
「足を使う」
「足!?足をかよ」
「蕎麦を手で打つだけでなく足でも打つ」
兄は弟に食べながら話す、表情は全く変わらず口調も淡々としている。
「俺そうしてる」
「ああ、足か」
「そうだな、うちは蕎麦は手で打つだけだったな」
音也だけでなく父も言った。
「そこで足も入れるとな」
「余計にいいな」
「そう、やってみたらいい」
義也は別に秘密にする訳でもなく述べた、そうしてからは何も喋らず食べ続けた。
この時から二人も蕎麦を打つ時足も使う様になった、するとだった。
コシが段違いによくなり義也の蕎麦に迫った、それで音也は言った。
「手だけじゃないんだな、蕎麦は」
「そうだな、それを忘れていたな」
父も言った。
「手だけにこだわってな」
「うちは代々手打ちだったしな」
「そこに足を入れるなんてな」
「兄貴は凄いな」
「その閃きには脱帽だ」
「そうだな、けれどこれからはな」
音也は店の中で足で蕎麦を打ちつつ一緒に打っている父に話した。
「足も使ってな」
「打っていこうな」
「そうしような」
「足の方が手よりずっと力が強いし」
二人に朋美が言ってきた。
「しかも踏むから体重も思いきりかかるからね」
「ああ、手で打つよりもずっといいな」
「そうね、じゃあこれからはね」
「兄貴と一緒に足も使ってくよ」
「そうして美味しいお蕎麦出しましょう」
「お客さんにな」
「ざるそば一丁」
店ではその兄が無表情に蕎麦を作ってアルバイトの学生に言っていた、そしてその蕎麦もまた美味いと客に言われていた。足も使ったその蕎麦は。
その彼を観て母は言った。
「ただ、義也は蕎麦打ちはいいけれど」
「表情ないからな、兄貴」
「接客はもっとね」
どうかという顔で次男に話した。
「頑張ってもらいましょう」
「兄貴そっちは今一か」
「無表情よりも笑顔だから」
こう言うのだった、ここで音也は兄も問題点があるとわかった。そして人それぞれだと理解して兄へのコンプレックスはなくなっていった。
蕎麦は足も 完
2022・4・22
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