第二部 1978年
ソ連の長い手
欺瞞
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る
彼の顔は、夏の日差しを浴びたわけでもないのに額に汗がにじみ出ていた
「そいつに木原と接触させる」
悲愴な面持ちをした男は、思わず絶句する
「き、木原とは……、あ、あの……」
タバコを地面に投げ捨てると、合成皮革の短靴で踏みつける
(「後は、木原の心次第と言う事か……」)
西ドイツ・ハンブルク 4月23日 13時
休日を利用してマサキは市内に繰り出した
カフェで、大規模書店で見繕った10数冊の本を眺める
一般紙からソ連の動向を得る為、時折本を買い求めていたのだ
春の日差しの中、屋外の席に腰かける
橄欖色の羽毛服を脱ぎ、黒色のウールフランネルのシャツ姿で休んでいた所、美久が耳元で囁く
「ソ連通商代表部の関係者が会っても良いと来ていますが……」
声を掛けた彼女の方を振り返る
「通商代表部が……」
『ソ連通商代表部』
貿易の国家独占状態にあるソ連において、西側社会との通商による外貨獲得は重要な手段
同代表部は、相手国へ窓口として設置し、スパイ工作の隠れ蓑としても使われる
前の世界においても、対日有害工作はほぼ『通商代表部』が関わっていた
その様な経緯を知っている彼は、警戒した
「どういう風の吹き回しか……」
本を閉じて立ち上がると、彼女に耳打ちする
「ハンドバッグにある自動拳銃を用意して置け……」
そう告げた後、懐中よりラッキーストライクを取り出す
白地の紙箱より、茶色のフィルター付きタバコを抜き出すと、火を点ける
ゆっくりと紫煙を吐き出すと、ホンブルグを被った背広姿の大男を見た
男は彼の傍を通り過ぎようとした時、一枚の紙を渡す
紙を開くと、亀甲文字で書かれた文言が目に飛び込む
思わず口走った
「ミンスクハイヴ……」
背中越しに、ドイツ語で告げる
「この巣窟……、どんな形であっても潰れてくれれば、私共は助かりますので」
そう言い残すと、男は雑踏に消えて行った
立ち尽くす彼は、思うた
ソ連の形振り構わぬ態度……、此処まで追い詰められていたとは
今日あった男は、恐らくGRUの鉄砲玉であろう
前の世界で、落命する原因の一つとなったソ連……
彼の心の中に、深い憎悪の念が渦巻いていた
夕刻、日本総領事館でマサキからの話を聞かされた綾峰大尉ら一行は唖然としていた
ソ連が前回の誘拐事件に続き、再び接触を図ってきたことに思い悩んだ
日本政府の対応は、昨日のベルリン共和国宮殿のKGB部隊襲撃事件に遭っても変わらなかった
「君の考えは如何なのだね」
応接間にある来客用のテーブルに着くと総領事が尋ねて来た
「俺は帝国政府の対応なぞ関係なしに暴れようと思っている……。
だが、貴様等がソ連の
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