第119話『3つの戦場』
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いくら回避が得意でも、これは避けられなかったようだな」
「小癪な……!」
屋根と雨雲で日光が遮られて薄くなっているが、確かに影丸の影が伸びて、雨男の影を捕まえていた。
この瞬間を待っていた。いくら避けるのが得意だろうと、動けなければ意味がない。
5秒の時間と、"龍化"が解けたことによる相手の油断があって、ようやくこの状況を作り出せた。
「俺の勝ちだ。観念するんだな」
「何言ってるんだ。俺を殺すまでこの雨は止まないし、お前らの勝ちはありえないぜ?」
「そうかよ。ならお望み通りトドメを刺してやる。"黒龍の咆哮"!」
安い挑発だが、乗ってやる。アーサーや倒された魔術師たちの分も、たっぷりと仕返ししないと気が済まないところだった。この灼熱のブレスを喰らえば、二度とその減らず口を叩けなくなるだろう。
これで、この無益な争いに終止符が──
「──あーあ。残念だけど、その攻撃は俺と相性が悪いんだよ」
「何っ!?」
しかし、雨男は右手を振るっただけでそのブレスを相殺してしまった。腕を振った風圧なのかそれ以外の要因か、どうやったかは定かではないが、影丸に驚きという隙を与えたのは事実。
「驚いてる暇はないぜ? ほら、お返しだ」
「これは……水?」
雨男から放たれたのは、いくつものシャボン玉のような水の球。それらは影丸を囲うように宙に浮かんだ。
手品でも見せられているのか。その不可解な物理現象に眉をひそめた、その瞬間だった。
「じゃあな、"黒龍"」
「──がはっ!?」
雨男の合図と共にその水滴1粒1粒が形を変え、鋭い針のようにになって影丸を突き刺したのだ。
その数およそ数十本。全身に針が突き刺さり、抉れた皮膚下から血が溢れてきた。
「ぐ、あ……」
針状の水は空中で固定されたかのように浮かんでいるため、刺された後も影丸は倒れることができない。磔のようにその場で血を流し続ける。
「これで"聖剣"と仲良く逝けるな」
そう言って、雨男は楽しそうに笑っていた。あまりに惨い行ないをしたのに、どうしてそんなに笑っていられるのか。
「影丸さん!!」
その様子に気づいた晴登の悲痛な叫びに、影丸が応えることはなかった。
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