第二章
[8]前話
「だからな」
「それでなんだ」
「兄ちゃんはいいの」
「そうだ、お前等は安心して勉強して遊べ」
笑顔で言った、そうして。
彼は弟も妹も育て養っていった、やがて夜間高校を卒業すると。
さらに仕事に家事に励んだ、そうして弟も妹も育てていき。
二人を大学まで行かせた、二人が卒業した時にはもう彼は三十を過ぎていたが独身だった。だがそれでもだった。
二人共就職して結婚を前提に付き合っている相手を兄の前に連れて行くとこう話した。
「兄さんがいてこそなんだ」
「私達があるのよ」
「働いて家事も皆してくれたんだ」
「そうして私達を育ててくれたのよ」
「そんな兄さんだからな」
「大事にしてね」
「おい、俺は好きでやっていただけだぞ」
兄はその二人に笑って言った。
「そんなこと言うなよ」
「いや、言うよ」
「だって中学校卒業してすぐに働いてじゃない」
「僕達育ててくれたし」
「大学まで行かせてくれたし」
「自分は夜学で充分だって言って」
「感謝してもし足りないわよ」
二人はその兄に返した。
「だからよ」
「僕の家族になる人にも言うよ」
大事にして欲しい、というのだ。
「自分は結婚しないでずっと育ててくれたんだ」
「兄さんは私達のヒーローよ」
「ヒーローっていっても戦わないけれどな」
赤井はこれまた笑って返した。
「それでもか」
「そうだよ、兄さんはずっとだよ」
「私達のヒーローよ」
「だからこれからは僕達が大切にするよ」
「兄さんをね」
「そんなのいいさ、お前等はお前等で楽しく生きろ」
ここでも笑顔で言ってだった。
赤井は二人が巣立ってからは自分の暮らしの為に働き続けた、しかし弟も妹もいつも彼のところに自分達の家族を連れてやって来た。そうして暖かい笑顔をヒーローに向けるのだった。
真のヒーロー 完
2022・4・18
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