暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
牙城
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ランシスコ条約で終わった話
 既に存在しない『ナチス』や『日本帝国主義』の亡霊に怯えるソ連と何ら変わりはないのではないか……
 この異界に遭っても、同じだ
たかが戦術機の納品時期が遅れた事で米国への恨み節を言う様……
原爆で20万人の人命が失われるより、害は無かろう
『曙計画』と言う事で軍民合同の研修計画を立てているのだから、決して軽んじてはいない
 あの帽子男の態度は、米国の日本への信頼を気付着けるばかりではなく、ひいては国益を損ねるのではないのか
 米国は独立以来、君主制こそ経験しなかった
とはいえ、慣習や契約を重視する封建社会の遺風が漂う社会
WASPと呼ばれる人々も、見ようによっては貴族層だ
貴族社会は名誉や道義を重んじる……
1000年前まで、先史時代の続いたロシア社会とは決定的に異なる
 
 その様な事を想起しながら、タバコを燻らせていると彼女が声を掛けてきた
「タバコを……」
見ると、手には茶灰色のネクタイ
艶がかっている所を見ると毛織であろうか……
右の食指と親指でタバコを掴み、灰皿に置く
(はだ)けていた白地のシャツを閉め、ネクタイを綺麗に巻く
ダブルノットで締め、両手で襟を正す
「奴等は、公衆の面前で平然と暗殺をする」
バックヘイマー社製の8インチ用ショルダーホルスターに、拳銃を押し込む
白色の布製ハーネスを背中に回し、右腰のベルトに付けてサスペンダーの様に固定
上着を羽織り、金無垢のボタンを閉め、軽くブラシを掛ける
茶灰色の紡毛カルゼ織の服地は、無地でありながら、綾のうねりが光沢がかって見える
タバコを4箱ほど左右の腰ポケットに入れ、茶灰色の軍帽を掴む
「奴等の牙城に乗り込む」

 領事館の前に立つトレンチコート姿の男は、右手をドアに向ける
「乗り給え、木原君」
マサキは、周囲を見回す
「70年型のリンカーン・コンチネンタルか」
男は、一瞬目を閉じる
「世事に(うと)い君にしては珍しいね」
思わず一瞬顔を(しか)める
「政府の一部局が、8000ドル(1978年時、一ドル195円)は下らないものを良く用意した物だ……」
彼の方を振り向き、不敵の笑みを浮かべる
「特別な手法さ……」
そう言うと哄笑する
 笑う男を尻目に、靴ひもを結ぶ振りをして車体の下を覘く
仕掛け爆弾が無いかを、確かめたのだ
両足の短靴を整えると、車両に乗り込んだ

 大型セダンが高速道路(アウトバーン)を走り抜ける
今よりハンブルク空港に向かい、北海経由でソ連ハバロフスクに向かう途中であった
ソ連政府からの招きに情報省が応じたのだ
当のマサキ自身や外務省は難色を示したが、彼等が無理に押し切ったのだ
 車中で、男はマサキに尋ねて来た
「防弾チョッキとは、恐れ入ったよ」

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