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冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
首府ハバロフスク その3
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 昼下がりのハバロフスク、カール・マルクス通り
嘗てこの周辺は、アムール開拓を進めたニコライ・ムラヴィヨフ伯爵を讃えて、ムラビヨフ・アムールスキー通りと呼ばれた
1917年のボリシェビキの暴力革命によって、同伯爵の銅像は破壊撤去
レーニン像が並び、名称もカール・マルクス通りに変更となった
そのカール・マルクス通り7番地に聳え立つ、ホテル『ルーシ』
 この建物は1910年に、日本人によってウスペンスキー教会保有土地を借り受けられ、「大日本帝国極東貿易会社」により、建設された。
設計はロシア人技師、建設は支那人と朝鮮人労働者によって実施
建物の最も目立つ部分は正面玄関上部のロシア風丸屋根
嘗ての所有者の家紋があしらわれている
シベリア出兵に際し、帝国陸軍将校指定ホテルとして徴用された場所でもあった

 そこで、数人の男達が密議をしていた
「木原を我が陣営に招き入れるだと……」
KGB長官は、立ったまま、右手を振り上げる
勢い良く手を下げると、机の上に有るガラス製のコップを弾き飛ばす
床に勢い良くぶつかり、粉々に砕け散る
足元には、割れたグラスと共に中の液体が広がる
室内にいる男達は恐縮した
「何を考えているのだ」
彼は先の木原マサキ誘拐事件の失敗を悔やんでいた
科学アカデミーの企てに参加した形とはいえ、名うてのKGB工作員を失ったのは手痛い損失
その上、シュミットをはじめとした東ドイツ国内のKGB諜報網はほぼ壊滅状態
原因はすべて木原マサキではないかとの結論に居たり、この様な言動になった
「その様な事は許されない。
議長、貴方はソビエト連邦社会主義国の最高指導者。
赤軍参謀総長の考えなど一蹴したら良いではないか」

「木原マサキは消し去る、抹殺で良いではないか」
常日頃より、議長を庇い続ける姿勢を示していた第二書記は、反論する
「しかし……」
「何だね」
興奮した様子で、長官は彼の方を向く
「危ない橋を渡ることに成る……。
私は長い間、ソ連共産党中央委員会書記長の右腕をやってきた」
両手を広げる
「議長は党益を優先された人物、皆も良く知っている。
その益を捨てて、自分の盟友の願いを優先させる……、大変な問題だ」
じろりと、KGB長官の顔を見つめる
「個人的名誉よりも党益を優先させるのが、ソ連共産党の大原則……」
KGB長官は、室内を歩き始める
男の対応に苛立ちを隠せない様子であった
「何が何でも木原を抹殺するんだ。
そうしなければ、我等は御終いだ」
護衛のように寄り添う首相が、口を開く
「ミンスクハイヴの攻略を完了させてから、木原を殺せば……」
男の右頬に鉄拳が舞い、弾き飛ばされる
倒れ込んだ男を眺めるKGB長官
周囲を睥睨する様に、顔を動かす
「木原をソ連邦に招いて
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