第二十ニ章 そう思うなら、それでも構わない
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体になっておったことなんて、以前に話してくれたことじゃろ。今更じゃけえね」
「うあああああああああああああああ!」
掛けられた言葉のためか分からないが、またアサキは頭を抱えて絶叫を張り上げた。
ぎりぎりと歯を軋らせ、飛び掛からんばかりの険しい表情を、治奈へと向けた。
ふー、ふーっ、手負いの獣のような、荒く速い呼吸をしながら。
「一体……な、なにが、アサキ、ちゃん……」
治奈は、半ば呆然と、半ば不安や心配の表情で、小さく口を動かして問う。
それから、どれだけの時間が過ぎただろう。
数秒であったか、数分であったか、どれだけの時間が。
赤毛の少女の、荒い呼吸が少し静かになっていた。
治奈へと、また顔を向けると、ゆっくりと口を開いた。
「戻ったんだ……」
ようやく発せられた意味のある言葉を聞き、治奈は少し驚いた顔になる。
「……戻った?」
オウム返しをするしかなかった。
赤毛の少女は、小さく頷いた。
すっかり弱りきった表情で、小さく。
「記憶が……」
目に涙を溜めながら、そこまでいうと口を閉ざし、そしてまた口を開いた。
「完全に、記憶が戻った」
ボロボロになった赤い魔道着の上で、自虐なのか、感情をごまかしたかったのか、僅かな、微笑を浮かべた。
「完全に、記憶が、戻った?」
治奈の反芻に、赤毛の少女はまた小さく頷いた。
瞳を震わせ、そして小さく唇を震わせた。
「人間じゃ、ないんだ」
溜まっていた涙が、一条つっと線を引いた。
3
時間が止まっていた。
それは治奈の脳内や体内だけであったかも知れないが、そう表現するに足る重たい雰囲気、冷たい沈黙が、この場を支配していることに違いはなかった。
グレースーツの偉丈夫、至垂徳柳が、楽しくて仕方ないといった顔で二人の様子、ことの成り行きを見守っている。
僅か数秒という、とてつもなく長い感覚の後、不意に時が動き出した。
「え、えっ」
治奈が、自分の飲む唾の音に、目をばちばちしばたき、慌て、目を見開いた。
合わせて至垂も、これまで以上のいやらしい笑みを作って、
「そぉーだね。キマイラだもんねえ」
嬉々とはしゃぐ声を出した。
どちらが演技か地であるか、彼のこのハイテンション、以前とはすっかりキャラが変わってしまっている。
「黙れ!」
嫌悪侮蔑の表情で、同じベクトルの感情がたっぷりと乗った叫び声を、治奈は吐き出した。
妹が捕らわれの身であいること、すっかり失念し、友を思う気持ちのあまり激高しているのだろう。
次いでアサキへは柔らかな笑
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