第二十ニ章 そう思うなら、それでも構わない
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などでは決してなく、全人生全記憶をあますところなく長大に細密に認識させられる。
そんな現実に精神が耐えられず、赤毛の少女、令堂和咲は、青ざめた顔で震えていた。
がちがちと、歯を鳴らしていた。
両腕で赤毛の頭を、潰れそうなほどに強く抱えている。
いまにも目玉が、ぬるんと飛び出しそうなほどに。
鬼気迫る、およそすべての負の感情がないまぜになった、険しい、醜い形相で。
遠目からでも、はっきり分かるほどに、身体が震えている。
まだあどけなさを多分に残している顔に浮かんでいるのは、怒りと悲しみ、畏怖や罪悪感、闇、狂気、消滅願望。
負の連鎖に耐えられず、狂い始めているアサキの姿を、グレースーツの男、至垂徳柳が見ている。
これは滑稽だ、といわんばかり、楽しそうな顔で。
存分に堪能したのか彼は、無骨な体躯に似合わぬ女性のような仕草で、髪の毛を掻き上げた。
「思い出したかね? 『キマイラ』である、と」
引き金を引く言葉であった。
赤毛の少女の内臓も魂も、すべてを喉から絞り出すような、壮絶な、尋常ならざる狂気に満ちた、絶叫の。
壁が震えて崩れ落ちそうなほどの、アサキの絶叫は、そうせねば待つは自己崩壊、という生存本能からの防衛であったか。それとも、既に崩壊しているが故に狂っているのか。
まずどちらかであろう、というほどに、アサキの瞳孔は完全に開いて、引き裂けんばかりの口からバンシーにすら呪い勝つのではというほどの凄まじい絶叫を放ち続けていた。
完全に発狂している。
そうとしか見えないアサキの喚き、叫び、怒声。
それは至垂にとっては子守唄。彼は耳を傾け心地よさげに、うっとりした顔になっている。
治奈は、怒りと軽蔑の一瞥を彼へと向けると、すぐ、ただならぬ状態へ陥っている親友へと近寄り、肩に手を掛け、
「アサキちゃん! しっかり!」
動揺しながらも、必死に呼び掛けをするのであるが、
「触るなあ!」
掛けたその手は、身体をよじらせながらの平手の横振りで、弾かれていた。
「アサキ、ちゃん……」
予想外の拒絶を受けた治奈は、不意に頬を張られでもしたかのように、呆けた顔になっていた。
アサキの目が、はっと見開かれた。
「ご、ごめん! 治奈ちゃん、ごめん! わたし……」
親友をはたいてしまった罪悪感が心を正気に戻したか、アサキは、あたふたおろおろとしながらも謝って、赤毛の頭を下げた。
「ええよ、気にしとらん」
そうでもないようだったが、治奈はとにかくそう微笑んだ。
「それよりアサキちゃん、どがいしたん、いきなり……ここで実験
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