第二十ニ章 そう思うなら、それでも構わない
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」
「したくもない!」
不快げな表情で、拳を受け流したアサキ。
その目が、驚きに見開かれていた。
僅か一瞬の隙を突いての、至垂の、後ろ回し蹴り。
ぶん、と空気を焦がし、アサキの顔面を捉え、のけぞらせ、身体を大きく吹き飛ばしたのである。
がぐっ、と悲鳴、呻き声を上げながらも、アサキは床に爪先をつき、踵をつき、踏ん張った。
信じられないといった表情で、リヒト所長の顔を見る。
自分の顔、踵による打撃を受けて痛む頬を、手のひらで軽くさする。
驚いていた。
油断したとはいえ、ここまで綺麗な蹴りを受けるとは。
男性、つまり魔力を持たない、魔道着を着ていない者から。
自分が、まだまだ実力不足なだけだ。
と、気を取り直し、至垂へと向き直るアサキであるが、
「うちが代わる!」
二人の間に、治奈が入り込んだ。
アサキへと背を向け、至垂へと、槍を構えた。
「丸腰相手に二人は卑怯と思って、黙っておったんじゃけど。いつまでも、こうしてはおれんからのう。……アサキちゃんは傷を付けないことに、こだわっておったけど、うちは甘くない。手足をぶった切ってでも、ここでお前を捕らえて、フミのところへ案内してもらう」
「ぶった切るって、そんなナマクラみたいな玩具で、なにか出来るものなのか。是非、やって見せてくれよ」
「なにを!」
挑発の言葉に、語気荒くなる治奈。
であるが、二の句を継ぐことは出来なかった。
構えた槍の穂先が、ぽとり落ちて、床に転がったのである。
柄の、穂先に近い部分が、綺麗に折られていた。
グレーのスーツ、至垂徳柳が、両の手刀を胸の前で構えている。
なにが起きたかは、明白であった。
「わたしは、武器開発にも携わっている。魔力強化の届きにくい、脆い点も、熟知しているからね。へし折るなど、造作もない」
ふふっ、と笑う至垂。
の前で、治奈は、折られた槍を投げ捨てた。
「いらんわ別に。長柄の武器で、懐に入られたら面倒と思っとったとこじゃ」
紫の魔道着、治奈は、文字通り空手になった身で、カズミから習った空手の型をとり、構えた。
治奈の隣に、アサキが肩を並べた。
「あがこう時間を引き伸ばそう、というよりも、わたしたちの心を乱すことが目的に思えます。でも、もうそんな無駄なことはやめて下さい。わたしたちは、あなたを捕まえて、フミちゃん返してもらって、すべてを終わらせる。それから、心を乱します。起きたこと、仲間の死を、悲しみますから」
アサキも、治奈と同じように空手の構えをとる。
両手を胸の高さで、腰をやや落とした。
「よく気が付いたねえ。乱そうとしていると」
どこまでバカにするつもりなのか
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