第二十ニ章 そう思うなら、それでも構わない
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サキとしては、どうにもままならなかった。
「やめて下さい。戦闘力のない人に、手荒な真似はしたくない!」
甘いことをいっている。
という自覚は、アサキにはある。
このリヒト所長が、どれだけ非道なことをしたか、もちろん理解している。
メンシュヴェルトもリヒトも政府の非合法機関である。非合法が故、然るべき場所に連れていき裁きを受けさせることになれば、極刑だってあり得るのではないか。
それくらいの罪は、犯しているのではないか。
個人的にも、正香ちゃんたちや、ウメちゃんの件、その恨みがある。
晴らしても晴らし足りない、恨みがある。
でも、それはそれだ。
どんな人間であろうとも、自分は、出来ることならば暴力はふるいたくない。
人を武器で切り付けたり、殴ったりなんか、したくない。
先ほどの戦いだって、倒さなければ自分が殺される。
だから精一杯戦っただけだ。
「優等生なこといってないで、好きに剣や拳で攻撃すればいいだろ。きみは確か、剣道とか空手をやっているんだろう。生身相手に抜剣を躊躇うというのなら、空手でわたしを殴ればいいじゃないか。蹴ればいいじゃないか」
狂気に満ちた笑みを浮かべたリヒト所長は、さらに執拗に、攻撃の手数を増やしていく。
防戦一方のアサキを、攻撃し続ける。
「その、態度は、理不尽です! 思うようにならないからって……わたしの心を追い込めなかったって」
そうだ。
わたしは、絶望しなかった。
ただ、それだけだ。
修一くんと直美さんといった家族、治奈ちゃんやカズミちゃんといった仲間がいてくれる。
ただ、それだけだ。
「うるさいよ! ほらほらほらあ!」
至垂が自虐っぽい笑みと共に、拳連打の速度を高めた。
「ぐぅっ」
かわしきれず一発を肩に受け、アサキは呻き顔を軽く歪めた。
男性、つまり生身で魔法力などないはずなのに、予想よりも遥かに打撃が重かったのだ。
だが好機だ、と取り押さえようと、素早く手を伸ばした。
「おっと」
彼は身をよじって、からかうように、するりするりと後退した。
後退したかと思うと、もう自ら距離を詰めて、アサキへと拳を浴びせてくる。
男性である以上は、魔力による身体能力向上など、させられないはずなのに。
この身の裁き方、拳の重さ、あまりにも強過ぎないか?
まるで、これはわたしだ。
女性、
膨大な魔力を持った女性が、その魔力を体内循環させながら生身で戦っているかのようだ。
特殊訓練を受けているのかも知れない。
対魔法使い用の。
どうであろうと、関係ない。
捕らえるだけだ。
絶対に
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