第二十ニ章 そう思うなら、それでも構わない
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っと、これはこれで、時期的にちょうどよい、と判断されたから、我々を追わなかった。
身体のパーツも定まり、無数の呪いも埋め込まれ、後は絶望を絶望に感じるための、まっとうな情緒を育てる時期。
おそらくいずれは、記憶を消されて、どこかの家に送り込まれていた。それが早まっただけなんだ。
でも、そんなことは、どうでもいい。
大切なこと。
それはわたしが、あんな姿で、あんな状態であった時に、人として人に、魂として魂に、対等に接してくれる、思ってくれる、そんな人が二人もいたということ。
いてくれた、という事実。
そうだ。
簡単なことだった。
なにをわたしは、この世の苦悩を全部背負い込んだように、泣き喚いていたんだ。
なんであろうとも、わたしは、わたしなんだ。
治奈ちゃんが知るわたし、カズミちゃんが知るわたしが、わたしなんだ。
そうだ。
顔を、上げろ。
アサキ!
7
部屋の中は、しん、と静まり返っている。
息遣いどころか、心臓の音、血液の流れすらも、聞こえてきそうなほどに。
床に崩れ、膝をつき、手をつき、肩を震わせている、赤い魔道着を着た赤い髪の少女。
彼女の名を呼び疲れて、紫の魔道着、治奈が涙目のまま立ち尽くしている。
グレースーツを着た大柄な男性、至垂徳柳が一人、にやにやと嬉しそうな笑みを浮かべている。
堪えているのか、それでも漏れてしまうのか、またはすべてわざとなのか、いやらしい笑み、口角の釣り上がり、目元の歪み。
彼自身が作り出した、この張り詰めた静けさを破ったのは、彼自身の、その歪んだ笑みを浮かべた口から発せられる、ねっとりした低い声であった。
歪み一巡して、いっそ無垢にさえ見える笑顔が、口元が、ゆっくりと動いた。
アサキへと、とどめの言葉を浴びせるべく。
「記憶は完全に、思い出せたかね」
発せられた、ねっとりとした声、問い掛けに、赤毛の少女は、静かに頷いた。
床に崩れたまま、俯いたまま、小さく、でも、はっきりと。
「思い、出しました……すべてを」
グレースーツを着た至垂徳柳、その笑顔が、不意に変化していた。
感情ベクトルとしてはそのままであるが、疑心不安という不純物が抜けたか、気の弱い人間ならその表情だけで舐め殺せるくらい底の深い、かつ粘液質な、不快な笑みへと、変質していた。
端的にいうならば、表情のいやらしさが格段にパワーアップしていた。
「ならばかつてない、呪詛ぉ、絶望おおおおおおおお」
歌うように、嬉しそうに。
堪えるように、弾けるように。
呪うように、祝うように。
すべ
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