第二十ニ章 そう思うなら、それでも構わない
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同情なんかいらない。
いらない、けれど……
でも、ありがたかった。
その言葉が。
だからわたしは、心の中だけでも、唱えるんだ。
ありがとう。
6
どうしてわたしが、令堂家の養子になったのかも、はっきりと思い出したよ。
修一くんも、直美さんも、元々はリヒトの研究員だったということは、以前に思い出せていたけれど。
あの、研究室でわたしのため憤慨してくれていたのが、修一くんだったんだ。
二人は、リヒトに入って間もなく結婚して、夫婦で働いていた。
修一くんが、わたしへの実験測定をするメンバーの一人。
データ解析、及びわたしの世話や、情緒面の教育をするのが、直美さんだった。
若くして結婚するくらいだから、同じ感性、価値観だったのだろう。
幼い女の子にしか見えない肉体を実験するという、日々の続く限り膨れ上がっていくなんとも呼べない罪悪感にも似た思いに、二人は悩み、疲れ、逃げ出した。
まだ六歳であった、わたしを連れて。
機密保持、という観点からも当然のこと追っ手が差し向けられる。
数人の魔法使いが、姿を消して追ってきていた。
一般人の逃走痕跡を、魔法で辿るなんて、簡単だ。
すぐに、見つかった。
捕まりそうになった。
その時、どうやらわたしが、魔法を発動させた。
そこにいる人たちの記憶を、すべて消し去った。
わたし自身の、記憶すらも。
ずっと思っていた、わたしが実の親から虐待を受けていた、というのは、辻褄を合わせるためにわたし自身によって作り上げられた記憶だった。
なんの辻褄かというと、日々の辛い思いが身体から消し去れるはずもなく、ならば、と感情や感覚を、親の虐待によるものへとすり替えたのだ。
わたし自身の安全を守るため、というよりは、わたし自身が崩壊しないために。
無意識に。
その記憶を、修一くんたちにも植え付けてしまっていた。
それは、二人を守るため。
だって、リヒトから逃げられるはずがないからだ。
逃走するわたしたちを、見つけ次第すぐに殺すことも出来たのに、じわじわ、いたぶるような態度で、魔法使いたちは追い詰めようとしていた。
それは、おそらく反応を見るため。
なにかが、起こるかも知れないから。彼らにとっての、面白いなにかが。
結局、わたしの魔法で、その魔法使いたちを追い払い、我々は助かり、そして、塗り替えられた記憶のまま、三人の共同生活が始まったわけだけど……
たぶん、すぐ次の追手を差し向けることも出来たはず。
わたしたちを捕らえることは出来たはず。
き
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