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冥王来訪
第二部 1978年
影の政府
熱砂の王 その1
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、食事する手を止めて。
「ほう、俺をそんな高級ホテルに呼ぶとは。ダンスパーティでもするのか」
「イスラエルの外相が会いたいそうだ」
鎧衣を振り向かずに、椅子から立ち上がって、
「フフフ、よかろう。制服に着替えたら、直ぐにでも行く」

 ホテルの一室に着くと、そこには頭を綺麗に刈り上げ、左目に眼帯をした屈強な壮年の男がいた。
彼こそは、中東戦争でその名をはせた片目のモシェ・ダヤン、その人であった。 
「おまたせしました」
深々と頭を下げた鎧衣をみるなり、ダヤン将軍は相好を崩した。
「ミスター鎧衣、お久しいですな。貴殿も随分逞しく成られましたな」
「ダヤン将軍、私的訪日の折、護衛を兼ねた通訳を務めさせて頂いて以来ですが、お変わりなく……」

 マサキに向かって、ダヤン将軍は一礼をした後、
「挨拶は抜きにして、話に入りましょう。
木原博士、シリアとの接触の狙いは何でしょうか。
シナイ半島の帰属問題ですか、我が国の核武装に関するうわさでしょうか……」
 1978年当時、エジプトのシナイ半島は、第三次中東戦争の結果、イスラエルに占領された領土であった。
「シリアの件は、貴様等を呼び出す方便さ。
俺は、ゴラン高原の問題やエルサレム問題、シナイ半島の帰属などどうでもいい。
本当の狙いは、英国のユダヤ人男爵に話をつけたい。
その為に貴様を頼った。男爵は元情報将校と聞く。
モサドを通じてMI6との伝手を使えば、簡単に会えると聞いてな」

「男爵?」
不敵の笑みを湛えたマサキは、ドイツ語で、
赤色表札(ロートシールト)」と短く答えた。
マサキのことばは、その場にいたすべての者の肺腑(はいふ)をドキッとさせたようだった。
「ユダヤ人男爵は、イスラエル建国の真の立役者。
オスマン・トルコ時代からパレスチナの農地を買い集めた大地主と連絡を取るのは、この俺では役不足でな……」
ダヤン将軍は、さすが何か、ただ事ならじと察したらしく、不安そうなまなざしでマサキを見つめていた。
「安心しろ。俺は、黒人もユダヤ人も差別はせん。
世界征服の暁には、等しく、この俺の奴隷になるのだから。ハハハハハ」
キョトンとするダヤンと鎧衣を後にして、マサキは美久の手を引っ張って帰ってしまった。
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