第二部 1978年
影の政府
熱砂の王 その1
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7の操縦訓練を受けさせていた。
その折、若かりし頃のアサド空軍大尉は、ソ連でジェット戦闘機への機種転換訓練を受けた。
留学先のソ連で、高等士官の教育を受けていたシュトラハヴィッツと、知己を得たのである。
「さすが参謀本部作戦部長だけあって、顔が広いな。シュトラハヴィッツ。
じゃあ、帰らせてもらうぜ」
立ち去ろうとするマサキの事を、アベールは呼び止めた。
「待ち給え、それで、我等は何を得ようというのだね」
マサキは、満面の笑みで振り返り、
「俺が、東ドイツにラタキア経由で、シリア産原油の融通を聞かせるよう伝えてやるよ。
ロシア産の粗悪な石油より、中近東産の甘い原油の方が、質はずっと上だ」
甘い原油とは石油系硫黄化合物の割合の少ない原油の事である。
一応、ソ連国内でもバクー油田の石油は硫黄分が数百分の一と高品質であったが、ウラル・ボルガ地方の油田やシベリアの油田ではその割合は6パーセント近くあり、高度な精製技術が必要だった。
硫黄化合物の割合の多い石油は、化学的安定性や燃焼効率を低下させ、不快な臭いを放ち、エンジンの腐食の原因となる。
ガソリンでは、抗爆発性を低下させ、硫黄酸化物を放出して大気を汚染する原因になった。
通産官僚のアベールには、その話は魅力的だった。
ソ連製原油が手に入っているとはいえ、BETA戦争で、その割合は大幅に低下した。
西ドイツにも秘密裏に転売している分もあり、東ドイツ国内では、どうしても産業用の原油や石油が不足している。
そして一番の問題は西ドイツにも、東ドイツにも大規模な石油精製コンビナートを兼ね備えた港がないと言う事だった。
全てを海上輸送で賄う日本とは違い、石油パイプラインで融通していた東西ドイツにしてみれば湾港整備の方がかえって費用がかかる為であった。
「貴様等にも悪くない話であるまい」
と、告げると、足早に共和国宮殿を後にした。
マサキが、東ドイツを介して、シリアと接触した事は、すぐさまダマスカスに居る工作員を通じて、イスラエルに漏れ伝わった。
世にモサドとして知られる、防諜機関、イスラエル諜報特務庁は、同国の対アラブ政策の盾である。
元ナチス幹部の誘拐やシリア首脳部へのスパイ工作、要人暗殺などの荒々しい事をすることで有名であろう。
シリアとのコンタクトの件は、モサドを通じて、即座に情報省に照会が成された。
ニューヨークの総領事館に居た鎧衣は、本省の情報員と接触した後、動く。
国連総会出席の後、中東問題の交渉で訪米中だったイスラエル外相と接触を図る。
翌日、ブロンクスのファーストフード店に白銀と出かけていたマサキの所に、鎧衣が大童で現れ、
「木原君、急ぎで悪いが、ザ・ペニンシュラに行ってくれないか」
マサキは
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