第二十一章 それでも顔を上げて前へ進む
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めて作ってやってるのに、人の苦労も知らないでなあ」
「な、なにを……いって……」
「試験管に入っている時からして、みんないつも恨めしそうに、ぎょろぎょろしてて。眼球だけなのに、恨めしくぎょろぎょろってのも、変な話ではあるけどさあ」
どんどんフランクな話し方になる至垂徳柳が、はははっ、と乾いた笑い声を立てるのと、
アサキの肩が、びくっと大きく震えるのは、同時だった。
「あ……ああ……」
ふらり、
力を失って、アサキの身体がよろける。
その顔からは、完全に血の気が引いていた。
両腕で、赤毛の頭を抱えた。
抱えた腕の中、頬が、口が、目元が、引きつっていた。
ぶるぶる、震える身体。
見開かれた目。
焦点の合っていない開いた瞳孔が、微かに震えている。
「アサキちゃん! アサキちゃん! どがいしたんじゃ!」
治奈が、必死に呼び掛ける。
だが、アサキの目には、心配する友人も、ニヤニヤ笑みを浮かべているリヒト所長の姿も、なんにも映ってはいなかった。
ただ、恐怖に震えているばかりであった。
ただ、衝撃に震えているばかりであった。
「わ、わたし……そ、そんな、そんな!」
また、後ろへよろけると、赤毛の頭を、さらにぎゅっと強く抱えた。
どっと押し寄せていたのである。
大量の記憶が……
怒涛の激流となって、
神経を食い破り、
頭蓋骨を砕いて、内から、外から……
悲鳴を上げていた。
建物が倒壊するのではないか、というくらいに、それは凄まじい悲鳴を張り上げていた。
この世の呪詛をすべて引き受けたかのような、断末魔にも似た絶叫であった。
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