第三章
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連隊長はその彼にこう言った。
「おまんがよかったら」
「それならですか」
「西郷さんと会えるが」
「そうしていいですか」
「おいもおまんも薩摩の出」
西郷と同じくというのだ。
「それならだ」
「最後にですか」
「西郷さんにお会いしていいとな」
「山縣閣下が言っておられますか」
「そうだ、どうする」
「会わせて下さい、西郷さんとは少尉の時に少し会った位ですが」
それでもというのだ。
「笑顔で凄く優しい声をかけられました」
「おいもだ、凄い人だったな」
「その西郷さんに最後に会えるなら」
「会おうな」
「それでは」
こう話してだった。
重野は連隊長と共に西郷に会いに行った、そこには軍を率いていた山縣有朋が幕僚達と共に軍服姿でいて。
西郷を見ていた、首だけになった西郷は目を閉じ何も語らないが。
重野は連隊長と共に彼の前に出ると二人で深々と頭を下げた、そうしてから共にこの言葉を出した。
「ゆるしゃったもんせ」
「これも運命だ」
山縣は二人に沈痛な声で告げた。
「誰も悪くない、諸君等も西郷さんも」
「誰もですか」
「悪くないですか」
「西郷さんの本意ではなかった」
叛乱の総大将になったことはというのだ。
「そしてその誇りは誰も汚さん、だから諸君等もだ」
「悲しまず、ですか」
「そして苦しまず、ですか」
「これからも奉職することだ」
こう言うのだった、そして彼等も他の薩摩出身の者達も西郷と合わせ。
彼を丁重に弔った、その後で。
重野は連隊長と共に飲みながら言った。
「出来ればです」
「西郷さんとはな」
「戦いたくなかったです」
「おいもだ、しかしな」
「山縣閣下が言われましたが」
「これは運命だ」
そうであったというのだ。
「お互いにな」
「戦うしかなかったですか」
「そうだった、だからな」
「悲しむことも苦しむこともですか」
「そして悔やむこともな」
このこともというのだ。
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