第一章
[2]次話
薩摩人
その話を聞いてだ、陸軍大尉重野牧男は苦い顔で自分にその話を知らせた下士官に問い返した。
「その話本当なんだな」
「はい」
下士官、軍曹の階級にある彼は太い眉と鋭い目を持つ長身の彼に答えた。
「左様です」
「そうか、あの方がか」
「担がれた様ですが」
「しかし事実だな」
「叛乱を起こしました」
「そうなるとな」
難しい顔でだ、重野は軍曹に話した。
「我々もだ」
「出陣するかも知れないですね」
「そん時あの人を討つか」
「西郷閣下を」
「西郷さんは大好きだ」
重野は今度は俯いて言った。
「おいは薩摩隼人だ」
「そうでしたね」
「生まれはな、そのおいが西郷さんと戦うか」
「そうなった時は」
「仕方ありもさん」
こう言うのだった。
「戦っちゃる」
「そうされますか」
「そして」
そのうえでというのだ。
「あの人を討つことになっても」
「果たされますか」
「今のおいは官軍におる」
戊辰戦争の時の言葉をそのまま出した。
「そしてあん人が賊軍の総大将なら」
「討ちますか」
「そうするだけだ、それじゃあな」
「戦になれば」
「戦う」
西郷隆盛、彼とというのだ。
「それだけたい」
「では」
「出撃の時が来たらやりもっそ」
西郷と戦う、そうすると言うのだった。
重野はこの日から自然と酒を飲む量が増えた、毎晩忘れようと必死に飲んでいた。そうしてであった。
その日が来ないことを願っていた、だがその願いも空しく連隊長の前田一作口髭を生やした厳めしい顔の同郷の彼から告げられた。
「薩摩いえ鹿児島の方にですか」
「今熊本城が囲まれている」
連隊長は重野に答えた。
「その熊本城に向けてな」
「出陣しますか」
「我が連隊もな、だがおまんは」
連隊長は重野に言った。
「やはり」
「おいいえ私は官軍です」
これが重野の返事だった。
「ですから」
「戦うか」
「そうします」
「同郷そしてあの人が敵でもか」
「戦います、若しあの方が私の前に出れば」
「討つか」
「この手で」
連隊長に強い声で答えた。
「そうします」
「そうしてくれるか」
「はい、そして」
そのうえでというのだ。
「武勲にします」
「いいか、ではな」
「薩摩いえ鹿児島の方に」
「向かうぞ」
こう言ってだった。
連隊長は重野に熊本城の方に向かうことを告げた、連隊はすぐに出立し参戦した、戦いは極めて激しく。
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