第一章
[2]次話
皇帝を見て
始皇帝は巡幸が好きであった、中原を統一してからは何かあるとそれに出て国の中を見て回った。それは彼の趣味と言ってよかった。
それでだ、今も巡幸を行っていたが周りにこう言われた。
「間もなく楚に入ります」
「そうか」
始皇帝は厳粛な声で応えた。
「わかった」
「楚はです」
周りの者の一人が言ってきた。
「皇帝もご存知ですね」
「わかっている、降した国の中でもな」
始皇帝の声は厳粛なままであった、地の底から響く虎の様な声である。
「特にな」
「秦を憎んでいます」
「憎もうが構わぬ」
その青い、切れ長の目で語った。見れば赤い髭や髪を染めておりかなりの鷲鼻で胸は鷹の様に突き出ている。
「治めるだけだ」
「例え憎もうとも」
「法によってな、そしてだ」
「力で」
「従わせるのみ、秦や朕を嫌い憎もうがだ」
楚の地にいる民達がというのだ。
「そうするのみ、忠だの慕うだのな」
「そうしたことは」
「朕は求めぬ、従わせるのみ」
「法と力によって」
「それのみだ、だから周りに兵は置いたままで」
そのうえでというのだ。
「巡幸を続ける、多くの武器を持った強兵を見せれば」
「そうすれば」
「楚の者達も逆らわぬ」
「その力を見せますか」
「そうしていく、いいな」
「わかりました」
その者も頷いた、そうしてだった。
始皇帝は楚と呼ばれた地に入った、その周りに多くの兵を置いたうえで。
楚の巡幸を行った、すると。
多くの楚の者達が始皇帝と彼が乗る車それに周りの秦の兵達を見た、兵達の多さと武具のよさに怯む者ばかりだった。
だがその中で二メートルに達する長身で逞しい身体を持つ若い男が呟いた。
「皇帝がどうした、秦なぞだ」
「それを言うか」
「言いまする」
自分の前にいる小柄な男に応えた。
「ここは楚であります故」
「聞かれてもか」
「誰も言いませぬ」
自分が何を言ったことをというのだ。
「ですから」
「言うか」
「叔父上も同じお考えでしょう」
「父上は秦に敗れ死んだ」
叔父と呼ばれた彼はこう答えた。
「そして楚はな」
「秦に歴代の王の墓を焼かれました」
「白起にな、そしてだ」
「王、壊王はいたぶられ惨い死を迎えました」
「騙されてな」
「それを思いますと」
男は言った。
「秦が憎いです」
「そしてだな」
「あの男、始皇帝と言っていますが」
始皇帝が乗る車を睨んで言った。
「あの男にとって代わります」
「そうなるか」
「必ず」
「秦を倒してか」
「そうします」
こう言うのだった。
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