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我が子を抱いて
第一章

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       我が子を抱いて
 この頃宋は金に脅かされていた、金の騎兵隊に敵わず都の開封を攻め落とされ皇帝はおろか上皇まで囚われた。
 その為宋は長江流域まで逃れてそこで金に対した、そして多くの者が軍に入り金と戦おうとしていた。
 そのなかには韓世忠もいた、宋の武人であり国への忠誠心は高かった。
 彼は多くの精兵を率いて金と戦っていた、その傍らには細面で流麗な眉と切れ長の目を持ち紅の小さな唇と白い肌を持ち長身の女がいた。
 鎧に身を包んだ彼女を見てだ、韓世忠の軍を観に来た文官は彼に問うた。
「女ですか」
「私の妻です」
 韓世忠は文官に答えた。
「梁紅玉といいます」
「そうですか、貴方の奥方ですか」
「はい、元は芸者でありましたが」
 それでもというのだ。
「先の江南の乱を収める時に知り合い」
「そうしてですか」
「夫婦になりです」
 そうしてというのだ。
「学問だけでなく兵法そして武芸にも秀でているので」
「傍らに置かれていますか」
「左様です、駄目でしょうか」
 韓世忠は文官に問うた。
「女を軍に置いては」
「今は少しでも兵が必要な時です」
 文官は宋の現状から答えた。
「ですから」
「それで、ですか」
「奥方が優れた武人であられるならば」
 それならというのだ。
「いいかと。ではです」
「これからもですね」
「奥方と共に戦われて」
「金を退けることですね」
「そうして下さいますか」
「わかりました」
 韓世忠は文官に笑顔で答えた。
「それではです」
「そうして下さいますか」
「そして必ずやです」
「金を退けてですね」
「旧領を回復しましょう」
 金に奪われたそこをというのだ。
「そうしましょう」
「是非。ただ宰相殿ですが」
 ここで文官は難しい顔になって述べた、秦檜のことである。
「金を倒すことは出来ないと」
「お考えですか」
「精々黄河の南までをです」
 そこまでをというのだ。
「取り返すことが出来れば」
「いいとお考えですか」
「あの方は。金は強くしかも領土は遥か北にも広がっています」
「長城の北までも」
「その遥か北までもです」
 そこまでというのだ。
「ですから」
「金を倒すことは出来ない、ですか」
「そうお考えです」
「では長城の北までです」
 韓世忠は強い声で言った。
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