第三章
[8]前話
「主人公はカエサルだったわね」
「タイトルロールでね」
「というと昔は」
「そう、昔はね」
昔の歌劇ではというのだ。
「英雄とかそうした役はなんだ」
「カストラートの人が歌ってたの」
「そうだったんだ」
「カエサルも」
「他の役もだよ」
「英雄はそうだったの」
「そう、あの頃はね」
十八世紀まではというのだ。
「そうだったんだよ」
「そうした時代だったのね」
「そう、昔はね」
「今はテノールが歌う様な役も」
「ヴェルディやワーグナーの作品だと特にね」
因幡は好美に話した。
「そうだね」
「それが昔はなのね」
「昔はそうだったんだよ」
「カストラートが花形だったのね」
「もうテノールやソプラノよりもね」
遥かにというのだ。
「人気だったんだ、ドミンゴやカレーラスみたいな感じか」
「もっとなの」
「そうだったんだよ、カエサルを歌う様な」
英雄の代名詞と言っていい様な役をというのだ。
「立場だったんだよ」
「それが昔の歌劇ということね」
「うん、バロックオペラというけれど」
「まさにバロック時代のオペラだからなのね」
「実はロココもだけれどね」
この時代もというのだ、バロックは十七世紀でロココは十八世紀というのが歴史の時代区分であろうか。
「そうだったんだ、じゃあまた」
「ええ、そのバロックオペラをね」
「また観ようね」
「そうしましょう、モーツァルトもよね」
「そうだよ、じゃあ今度はモーツァルトかな」
「カストラートの役が出るオペラがあればね」
好美は笑顔で応えた、もう彼女はすっかりその時代の歌劇そしてカストラートが歌ってきた役に魅了されていた。
そしてまたその作品を観てだ、その後で因幡にうっとりとして答えた。
「今日も楽しめたわ」
「それは何よりだよ」
「やっぱりカストラートの役はいいわね」
「今はカウンターテノールが歌っているけれど」
「とてもいいわ、じゃあね」
「うん、またね」
「一緒に観ましょう」
「そうしようね」
二人で笑顔で話した、そうして歌劇の話をさらにした。女性としか聴こえない声で歌う英雄の話を。
英雄の声 完
2021・10・12
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