第二章
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「任せてくれるかな」
「明日にでも来ると思うけれど」
「じゃあ丁度いいよ、明日も休日だし」
「あなたが何とかしてくれるのね」
「うん、任せてくれるかな」
「あなたがそう言うなら」
郁美はこれまで夫にいつも助けられてきた、何かと頼りになる夫だ。それでだった。
この時も夫の言葉に頷いた、そして次の日の朝早くにだった。
老人は来た、そして玄関でだった。
出迎えた郁美に対して子供の義務をあれこれと言い親だからと言い立てた、そして早く入れて住ませろと言ってきた。
だが彼女の横にいた夫が老人に言った。
「もう離婚して親権ないですね」
「それがどうしたんだ」
「その時点で貴方は妻の父ではないです」
老人に冷たい声で告げたのだった。
「そして離婚してから一度もお会いしていないし養育費も何も支払っていないですね」
「ええ、そうよ」
郁美も言ってきた。
「お母さんはそんなのいらないてね」
「そう言ってだね」
「別れたって言ってたわ、そんなの払う人でもなかったって言ってたわ」
「そうだね」
「お母さんが全部してくれたの」
「それで大学まで行かせてくれたね」
「働いてね」
夫にこのことを話した。
「幸いお金には困らないお仕事だったから」
「そうだね」
「けれどお父さんには何もしてもらわなくて」
「記憶もないね」
「全くないわ」
「親なら当然記憶の中にあります」
夫は老人に向き直ってまた彼に告げた。
「それもない、何もしてこなかったのでは」
「わしは親ではないのか」
「はい、血はつながっていても」
それでもというのだ。
「あなたは親ではありません、どうしてもというなら裁判となりますが」
「くっ・・・・・・」
老人はここで苦い顔になり言葉が止まった、そしてだった。
そそくさと逃げ去りそれから二度と郁美達の前に出ることはなかった。郁美はこの騒動の後で母の写真を飾った仏壇の前で夫に言った。
「親は子供を育てて親になるのね」
「そして子供の記憶の中にあるんだよ」
「そうしたものね」
「だから育てていなくて記憶にないなら」
「血はつながっていてもね」
「親じゃないんだよ、何もしないで親になれない」
「もう養ってもらう以前ね
郁美は父の言葉を思い出して言った。
「そういうことね」
「そうだよ、じゃあ今からね」
「ええ、お母さんの仏壇に手を合わせましょう」
郁美は笑顔で夫に言った、そして母親に対して手を合わせた。自分を育ててくれて記憶に鮮明に残る彼女には。
親でなくなった父親 完
2022・3・29
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