第一章
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親でなくなった父親
久遠寺郁美はいきなり目の前に現れた八十過ぎと思われる白髪で腰が曲がり皺だらけの随分口が歪み小さな目の光が卑しく睨んできている老人の言葉に驚いた、郁美はふくよかで髪の毛にそろそろ白いものが混じっている目尻に皺のある一六〇位の背の五十代の女性だ。
その彼女が休日家に急に来た老人に言われていたのだ。
「お父さんって」
「そうだ、お前の父だ」
老人は郁美に言ってきた、家の玄関で。
「お前が三歳の時に母さんと別れただろ」
「そう聞いてますが」
数年前に亡くなった母から聞かされたことだ、父は彼女が物心つく前に浮気と暴力とギャンブルと酒そして借金で別れたと。それからはずっと女手一つで育てられてきた。
「本当ですか?」
「戸籍にちゃんとあるぞ」
老人はこう返した。
「だからこれからは養え」
「養えって」
「子供が親を養うのは当然だろ」
老人は実際に当然という調子で返した。
「そうだろ」
「親ですか」
「そうだ、だから今から家に入れろ」
一方的に言うのだった。
「いいな」
「あの、何も準備出来ていないの」
郁美は戸惑いを隠せない顔で老人に応えた。
「ですから今日は」
「帰れというのか」
「はい、お願いします」
「どうしてもか」
「夫と娘と話して」
「仕方ないな、また来るぞ」
老人はこの時は引き下がった、だが。
間違いなくまた来ると確信してだ、郁美は夫の雄二と娘の蓮美それに娘の夫の町谷潤同居している彼等とすぐに家族会議を開いた、すると。
まず娘が驚いて言った、外見は郁美の二十代後半の頃そのままである。
「私に父方のお祖父ちゃんいたの」
「ええ、私もすっかり忘れていたけれど」
「生きていたの」
「そうみたいよ」
「あの、騙りじゃないですよね」
娘の夫、眼鏡をかけた長方形で黒髪を清潔にセットした背が高く痩せた彼はこう言った。尚娘夫婦の間には男の子が一人いて郁美達も孫として可愛がっている。
「まさか」
「それが戸籍に証拠あるって言うから」
「間違いないですか」
「ええ、どうもね」
「それじゃあ」
「またうちに来て家に入れて養えって言うけれど」
郁美は困った顔でまた言った。
「いきなり言われてだし」
「いきなり着て養うのが当然とか言う人は駄目だよ」
夫が言ってきた、還暦誓いがまだ若々しく黒髪も豊かだ。大柄で筋肉質で顔立ちも含めて四十代に見える位だ。
「絶対に何をしても当然でね」
「感謝しないわね」
「それで好き勝手するよ」
「お母さんと別れたのは浮気とギャンブルとお酒と暴力と借金だったそうだし」
「それじゃあ尚更だよ」
「一緒に住むべきじゃないね」
「今度来たら僕が言うよ」
夫は妻に言った
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