第2部
エジンベア
商人としての資質
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てないし……」
「他にないのか?」
そんなことを言われても、鞄の中を掻き回して探してみるが、どれも黒胡椒並みに高値で売れそうなものはない。ちらりとユウリを見上げるが、無言の圧力が黒胡椒を手放す気はないのだと語っている。どうしたらいいかと峻巡していると、
「……どうしても黒胡椒を売る気がないなら、こっちの頼みを聞いてもらってもいいかい?」
みかねたドリスさんが、真剣な面持ちで私たちを見据えてそう言った。
「生憎だが俺たちには時間がない。条件によっては考えなくもないが」
そう言い放つユウリに、ドリスさんは鼻で笑った。
「そんな偉そうなことを言える立場かい。頼みというのは他でもない。あたしの弟子のルカを、少しの間預かってもらえないかい?」
「!?」
「どういうことだ?」
ドリスさんの言葉に、私たちだけでなく、ルカまでも驚いた顔をした。
「もうここでの商人としての修行はこなした。このままずっとここで働いてもらうのも構わないが、この子はいずれ父親と同じ道を歩みたいと言っている。父親がどういう仕事をしているか、姉のあんたならわかるだろ?」
「……はい」
私たちの父親ドワイト・ファブエルは、世界各地を飛び回る行商人だ。実家のカザーブに帰ってくるのは半年に一回ほど。それ以外はあちこちの国や町を渡り歩き、その地域の人に商品を売っている。だが、彼の仕入れる商品は一風変わったものばかりで、本当に売れるのか子供ながら疑問に思っていたが、なぜかいつも全ての商品を売りきって帰ってくるのだ。
「行商人になるなら一度でも世界を見て回った方がいい。ちょうど世界中を旅しているあんたたちと一緒に行動すれば、少しは勉強になるんじゃないかと思ったのさ。そうだね、とりあえずその髪飾り代分、この子の授業料だと思って面倒を見てもらえないかい?」
確かに私たちと一緒なら、いろんな町に行くことになる。でも、本来私たちの目的は魔王を倒すこと。エジンベアでも遭ったが、その辺にいるよりも強い魔物と対峙することだってあるのだ。
「さすがにそれは無理だな。魔王を倒すために行動するのならともかく、商人としての修行のために俺たちを利用するつもりなら、断る」
申し訳ないけど、ユウリの言うとおりだ。お世辞にもルカが魔物と渡り合えるほどの戦闘経験があるとはいえない。
「忘れてもらっちゃ困るね。あんたらはあたしのモノをなくしたんだ。当然それ相応の対価を払わなければならない。それが駄目ならその黒胡椒を売るしかないさ」
「くっ……なんて卑怯な……」
いや、なら黒胡椒を売ればいいのに。ユウリってば、そんなに手放したくないのだろうか。
それよりも私は、ルカの本心が聞きたかった。
「ねえルカ。お父さんみたいな商人になりたいって、本当なの?」
彼はしばらく言い淀んだが、やがて決
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