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ドリトル先生とめでたい幽霊
第十幕その六

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「天皇万歳と率直にね」
「言ったんだ」
「終戦直後に」
「そうしたのね」
「若い頃は共産主義に傾いたけれど」
 それでもというのです。
「考えを変えてね」
「そう言ったんだ」
「何でもその頃急に共産主義が力を持っていたそうだけれど」
「その中に」
「中には議論している相手に革命が起こったら君の首に縄がかかるぞって恫喝した人もいたよ」
 そうした人もいたというのです。
「羽仁五郎って学者だったけれどね」
「酷いこと言うね」
「本当にね」
「これはないね」
「恫喝じゃない」
「完全に」
「全くだよ、けれど太宰はね」
 この人はというのです。
「そんなことを言わないで」
「そう言ったんだね」
「そんなご時世に」
「そう思うとね」
「太宰は卑怯じゃなかったね」
「あの人は」
「そんな中で太宰はそうした人達を嫌って」
 そうしてというのです。
「既存の文学もだったんだ」
「批判していたんだ」
「そうだったんだね」
「終戦直後のそうしたものを見て」
「そうした人達を見て」
「それでだったんだ」
「うん、織田作さんはまた違ったけれど」
 太宰治という人はというのです。
「そうだったんだよ」
「成程ね」
「作家さんの考えにも色々あるんだね」
「何かと」
「そうなんだね」
「そうだよ、ただ織田作さんはそうしたものを見たけれど」
 太宰と同じくというのです。
「太宰とは別の考えで批判していたね」
「既存の文学を」
「そうだったんだ」
「志賀直哉にしても」
「志賀直哉とは全く違っていたんだ」
 織田作さんはそうだったというのです。
「元々ね。織田作さんは大阪の市井の人だったけれど」
「志賀直哉はどうだったの?」
「この人は」
「何か凄い存在だったみたいだけれど」
「当時は」
「この人は仙台藩の家老の家に生まれてね」 
 そうしてというのです。
「学習院も出ているんだ」
「生まれがよかったんだ」
「武士のそれも身分の高い家の人で」
「育ちもよかったんだ」
「うん、武士の家に生まれて東京で育ってね」
 それが志賀直哉という人だというのです。
「兵隊さんにもなってるよ」
「あっ、織田作さんの作品って兵隊さん出ないね」
「織田作さんは軍隊とは関係なかったんだ」
「そうだったの」
「当時は徴兵制度があったけれど」
 戦前はそうだったというのです。
「これは体格がよくて健康で品行方正でないと合格しなかったんだ」
「厳しいね」
「誰でも無理にさせられたんじゃないんだ」
「徴兵っていうと誰でもって思うけれど」
「その実はだったんだ」
「クラスで一人か二人位しか合格しなくてね」
 それでというのです。
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