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冥王来訪
第二部 1978年
ミンスクへ
乱賊 その3
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別な男が前に出て、自動拳銃をこちらに向ける
「待て、こいつから秘密を聞いてからでも遅くはない」
彼は苦笑する
「俺がその秘密を教える代わりに、オルタネイティヴ3計画を教えてくれぬか」
「良かろう。
我がソビエト連邦では、すでに対象の思考を読み取ったり、対象に自身の持つ印象を投射する能力者の開発に成功した」
彼は、その男の話を真剣に聞き入る振りをする
「具体的に申せば、超能力の素質を持つ人間同士を人工授精により交配させ、遺伝子操作や人工培養を行うことで、より強力な超能力を人為的に生み出した」
緩んだ紐から右腕が動かせるのが判った
「我等が望んだことは、言葉の通じぬBETAを相手に直に思考を判読させる事によって情報を収集し、直接的印象を投射する事で停戦の意思疎通を実現させるという事だ。
そしてそれは既に、実用段階に入り、成功したのだ」
鎌を掛け、彼等が本心を吐露(とろ)させた
今の話は、恐らく子機にある記憶装置にほぼ全てが収録されているであろう

 後ろより黄緑色の透明の液体を持った兵士が、男にそれを渡す
男はコップに開けると、それを彼に見せる
「これが何か分かるか」
彼は、溜息をついた
口から、先程の拳骨で傷ついた唇の血が流れ出る
「大方自白剤であろう」
男は、冷笑する
「今日は気分が良い。冥途の土産に教えてやろう。
わが科学アカデミーでは、既存の阿芙蓉(あふよう)やLSD、コカインの比でない低依存、強向精神性作用のある特殊な蛋白質(たんぱくしつ)の開発に成功した」
男は、『指向性蛋白質』について語った
「これを一口含めば、他人の思考操作は自在になる。
しかも、人体を傷つけずに体内へ直接薬剤などを投与できるとなれば、容易に洗脳工作も可能になる」
彼は哄笑する
「所詮貴様等は、匈奴(きょうど)の血を引いた蛮族(ばんぞく)よ。
あの輝んばかりの古代支那や、ギリシャの科学を継いだ回教国の諸王朝より、簒奪(さんだつ)した文物(ぶんぶつ)で、やっとこさユーラシアを支配する準備をした蒙古人の落とし子にしか過ぎぬ事がハッキリした」
左手も、自由に動けることを確認した
彼は続ける
「ギリシャの坊主が説法した折に文字が無い事を不憫(ふびん)に思うまで、文字すらなく。
先史時代を調べようにも土器の破片すらなく、陵墓(りょうぼ)や遺構の数も少ない。
法や約束の概念(がいねん)もない。
(まご)う事なき、スキタイの蛮人(ばんじん)ではないか」
男は、スキタイという言葉に激怒した
その言葉は、(かつ)て蛮人としてのロシア人を指す言葉として用いられた経緯を持っていたからだ
自動拳銃を彼の眼前に差し出す
その刹那、彼はベルトのバックルに両手で触れた
 
 眩い光が室内に広がる
ほぼ同時に衝撃波が広が
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