過去編 ウルトラフィストファイト
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れたのは、この世界に約1ヶ月ぶりの「怪獣」が出現した時であった。突如市街地の中心部に現れ、破壊の限りを尽くし始めたその怪獣の巨躯に、人々は悲鳴を上げて逃げ惑う。
「――!」
「あぁっ、見てお兄ちゃん! あれ、怪獣! 怪獣が出たよっ!」
兄と手を繋いで歩いていた可憐な少女も、つぶらな瞳でその怪獣を遠くから見つめていた。怪獣の姿を目の当たりにした要は、目を逸らし切れない「現実」を突き付けられたかのように、引き攣った貌で後退りしてしまう。
「あの怪獣、すっごくヘンな形してるねー。どこから来たのかなぁ?」
「……」
「お兄ちゃん? どうしたの? お腹痛いの?」
この世界の地球に現れた怪獣は――まさに1ヶ月前、要達をここに転移させたブルトンだったのである。
今の幸せな毎日が、この怪獣によって生み出された歪な幻であるという事実を思い出させるには、十分過ぎる光景であった。
その異様な外観は、若きウルトラマン達に非常な現実を見せつけていたのである。妹の手を握る要は、その青ざめた頬に汗を伝わせていた。そんな兄の異変に気付いた妹は、心配げに顔を覗き込んでいる。
『へァアッ!』
「あっ、見てお兄ちゃん! ほらっ、ウルトラマンが来てくれたよ! あんな怪獣、すぐにやっつけてくれるんだから心配しないでっ!」
「……!」
そこへ、この次元の地球を守護しているウルトラ戦士が駆け付けて来る。マッハ5もの速度でブルトンの前に飛来して来たその戦士は、勇ましい雄叫びを上げて怪獣に掴み掛かっていた。
初代ウルトラマンを彷彿とさせる外観でありつつも、瞳と身体の模様が鋭角的になっているその戦士――「ウルトラマンフィスト」は、人々に迫ろうとする怪獣に組み付き、その進行を押し留めていた。
(……俺は、俺は……!)
その勇姿が、要の心をさらに追い立てる。自分はこんなところで何をしているのだ、という気持ちが、彼に激しい焦燥を齎している。それは、別の場所で恋人や家族と過ごしていた雄介と嵐真も同様であった。
「……花苗。先に、家に帰ってろ」
「お兄ちゃん? えっ? どこ行くの?」
気が付けば、要の手は最愛の妹から離れていて。その首に下げられている、アーククリスタルを握り締めていた。
幼い妹を置き去りにして、ゆっくりと歩み出していく要の背に、少女の声がのし掛かる。けれど、振り返ることはできない。今振り返ったら、自分は今度こそ戻れなくなる。
(あぁ……帰りたくないなぁ。花苗と、ここで暮らしていたいなぁ。この世界なら、花苗が大人になるまで、一緒に居てあげられるのに。俺の中での花苗は、永遠に小さいままなのに)
肩を震わせ、ボロボロと泣き崩れながらも。せめてその貌だけは見せまいと、涙声など聞かせまい
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