第三章
[8]前話
「そのわしが団十郎だ」
「何っ、あんたがか」
「佐渡に生まれて七百年のな」
「五百年のわしより上ではないか」
「そうさ、丁度伊勢参りに行く時にあんたに会ったんだ」
「それでか」
「あんたが随分と威勢がいいんでな」
茶屋での話を聞いてというのだ。
「それでだ」
「わしに勝負をしようと言ってか」
「こうしたのさ」
「やられた、化け比べは知恵比べでもあるが」
それでもというのだ。
「その知恵で負けた、そもそもあんたが団十郎とわからなかった時点でな」
「負けていたか」
「完敗だ、これでは佐渡に行くまでもない」
「ここでわしに負けたからだな」
「加賀で大人しく修行をしていよう」
達観してこうも言った。
「そうしよう」
「それでか」
「自分の妖術と頭を磨いていく」
「そうか、励む様にな」
「そうする、それであんたは伊勢にお参りするか」
「これよりな」
幸四郎に笑って答えた。
「そうしてくる」
「そうか、じゃあその旅路を祝ってな」
「そうしてか」
「わしが負けたしな」
それでとだ、幸四郎は団十郎に笑って話した。
「今晩はわしのところに泊まれ、そうしてな」
「そしてか」
「美味いものを食っていけ、揚げに魚に菓子にと加賀の美味いものは何でもあるぞ」
「いや、揚げは何処にでもあるだろう」
「何を言う、まずは揚げだ」
何と言ってもという言葉だった。
「それ次第だ」
「それはお前さんが狐だからじゃないのか」
「そうでも食うであろう」
「それはな」
団十郎も否定しなかった。
「わしも嫌いではない」
「だったらな」
「揚げも食っていけというか」
「そうだ、それで伊勢に行くのだ」
「それではな」
団十郎は幸四郎に笑って応えてだった。
そうして彼の家で馳走になり楽しい夜を過ごした、そのうえで伊勢にと向かい楽しい伊勢参りを経験した。
帰りにも幸四郎のところに寄ったがもう彼は修業に入っていた。そして彼は今も加賀にいて団十郎も佐渡にいるという。この島に伝わる古い話である。
貉の団十郎 完
2021・7・7
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