第一章
[2]次話
貉の団十郎
江戸時代佐渡の二つ山に二つ岩団十郎という貉がいた。
団十郎は長く生き人間に化けて鉱山で働いて金を貯め何時しか人に金を貸したりまでする様になっていた。
やがて自分の穴倉に妖術をかけて見事な屋敷に見せてそこに人を招いて宴を開く様になっていた。この島の変化達の親玉になり人にも顔が利く様になっていた。
その彼がある時伊勢参りをしようと思い立ち手下や知り合いの人間達にそのことを伝え留守を頼んでから旅立った。
佐渡を出てから能登の港に入りそこからまずは都を目指した、その途中の加賀の道を歩いていると一匹の狐が都の方から来るのと鉢合わせした。
二匹は丁度茶屋で団子と茶を楽しんでいる時に会って話をした、狐は自分のことを兼六幸四郎と名乗った。
幸四郎は団十郎に笑って話した。
「お前さん佐渡の団十郎って貉を知ってるかい？」
「ああ、聞いたことがあるな」
団十郎は自分がそうだとは隠して応えた、気楽な一匹旅であったので自分のことを名乗ることもないと思ってのことだ。
「何かあっちのお顔役らしいな」
「そうらしいな、それで佐渡には狐はいないらしいな」
「らしいな」
このことは知っているが旅には関係ないと思いこう返した。
「あそこは」
「貉そして狸は化けるのは上手だが」
幸四郎は団十郎に笑って話した。
「狐も負けてないぜ」
「そう言うんだな」
「わしも五百年生きていてな」
「ほう、五百年か」
「化けることには自信があるんだ」
「それで団十郎っていう貉とか」
「いっちょ化け比べをしたいな」
団十郎に彼とは知らず話した。
「一度な」
「成程な、そう思ってるんだな」
「ああ、果たして団十郎はどれだけ化け上手かな」
笑って言うのだった、ここで団十郎はそれなら今は名前を隠しているが勝負をしてやろうと思ってだった。
団子を食いつつ幸四郎にこう言った。
「じゃあちょっとここでわしと化け比べするかい？」
「団十郎と同じ貉だからかい」
「ああ、どうだい？」
幸四郎に笑って申し出た。
「そうするか？わしは加賀の殿様の行列に化ける」
「あんたはか」
「ああ、だからお前さんは奥女中にでも化けて殿様の駕籠に声をかけてみろ」
「まずはそうするか」
「それでわしが勝ったらよし」
それでいいというのだ。
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