第二部 1978年
ソ連の長い手
首府ハバロフスク その2
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ハバロフスク時間、早朝4時
モスクワから退避してきた同地で、ソ連政府の臨時庁舎が居並ぶ大通り
早暁の官衙に、車が乗りつける
車を降りた男は、KGB臨時本部がある建物の中に速足で入り込む
『ウラリスクハイヴ消滅』の一報をこの建屋の主に届ける為に急いだ
「帰ったか」
部屋に出入りした諜報員が返ったことを確認する
「先程、送り届けました」
缶に入った両切りタバコの封を開ける
アルミ箔の封印を切り、中よりタバコを抜き出す
其の儘、口に咥えると、マッチで火を点ける
紫煙を燻らせた後、老人は室内で立つ男に声を掛けた
「なあ……」
起こしていた身を、革張りの椅子に預ける
「この老人の私がその気になれば、18、9のチェコスロバキアの小僧の命でも自由に出来る……」
対面する人物は、静かに聞く
「それが今のKGBの立場だ……」
言外に、10年前のチェコスロバキアで起きた『プラハの春』を振り返る
『プラハの春』
1968年1月チェコスロバキアでは、共産党第1書記に就いた新指導者の下、改革に乗り出す
市場経済の一部導入等、社会主義の枠内で民主化を目指した
同年6月には、知識人等が改革路線への支持を表明
7万人の同意を得た『二千語宣言』を世に出す
世人は、一連の流れを受けて、『人間の顔をした社会主義』と評した
だが、ソ連は彼等を認めなかった
党の埒外に置かれた『二千語宣言』……
同宣言を、ソ連は危険視した
自らが主導する、ワルシャワ条約機構の部隊を差し向け、同年8月20日深夜に侵攻を開始
介入後、指導者がソ連に一時連行され、方針を変更
数百名の犠牲が出た同事件の結果、改革は断念された
「奈落の底へ、転げ落ちたくはあるまい」
男は、老人の問いかけに応じる
「ベルリンの反動主義者、其の事ですが……」
その老人の顔色を窺いながら言葉を繋ぐ
「ハンガリーやチェコの件の様に、直ぐにけりを付ける心算です」
老人の真正面に顔を向ける
「我が国との友好関係を考える一派を通じて、各国に働きかけを行い……、
長官の思う通りに動きつつあります」
静謐がその場を湛える
一頻り、タバコを吸いこむと、ゆっくり口を開く
「貴様も憶えておくが良い……」
腰かけた椅子より上体を起こす
「東ドイツやポーランド、奴等が土台だ……
土台が動けば、ワルシャワ条約機構という基礎が傾き、ソビエト連邦共和国という屋台が崩れる」
眼光鋭く、彼を見る
「奴等に意志を持たせてはならない」
同日、東ドイツ18時
夕暮れのポツダム・サンスーシ宮殿
シュトラハヴィッツ少将とハイム少将は、ある人物と密会をしていた
陸軍総司令官であり、副大臣である男
参謀本部よりほど近い
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