第二部 1978年
ミンスクへ
乱賊
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持った。
その男が、この様に密書を送ると言う事は余程の事だ……」
燻る煙草を持つ右手で、灰皿へ、灰を落とす
「我等の意向を無視して、その日本人を堂々と誘拐しようと言う話は、事実であるか、確認中だ。
俺が穿り返す迄、保安省の馬鹿共も把握していなかった。
西に間者を送り込んでいても、この様なんだよ」
ベルンハルト中尉は、勢い良く立ち上がる
「これが事実なら、我が国の主権侵害ではありませんか、議長」
一服吸うと、彼の方を向き、答える
「まあ、落ち着け」
彼は、再び腰かけた
「無論その通りだ……。だが奴等は、主権尊重と内政不干渉よりも社会主義防衛を持ち出してくるだろう。
ハンガリー動乱も、チェコ事件も、その理論で動いた……。
策は無い訳では無いが……」
事務机の左脇にある電話が鳴り始める
男は、立ち上がって受話器を取ると、一言、二言伝える
受話器を一度置き、再びダイヤルを回し、何処かへ電話を掛ける
大臣とヤウクは、電話をする議長の姿を見ながら、再びタバコを出して吸い始めた
電話を掛け終えた男は、居住まいを正して、待つ
すると、青い顔をしたアスクマン少佐が入ってきた
彼等は思わず、顔を見合わせる
少佐は、男に挙手の礼を取ると、左脇に抱えた書類を恭しく差し出す
男は黙って頷き、間もなく少佐は部屋を後にした
その際、彼等に振り返って睨め付けて、行った
脇に居るヤウクは、思わず顔を顰めるのが判る
ドアが閉まり、足音が遠くなると、男は徐に口を開いた
手には、火の点いていない新しいタバコが握られている
「あの下種野郎とは、関わらぬほうが良い。
奴は、所詮使い捨ての駒にしか過ぎない……」
火を起こし、一頻りタバコを吸う
椅子に腰かけると、再び話し掛ける
「局長や次官でもないのに、何を勘違いしたのか、自分が保安省を動かしていると考えている戯け者だ」
暫しの沈黙の後、男は、ベルンハルト中尉に不思議な質問をしてきた
「付かぬ事を聞くが……、良いかね」
彼は、その男の方を向く
「何でありましょうか、同志議長」
男は、居住まいを正す
「君が妹御、アイリスディーナ嬢に関してだが……。
『西側に行きたい』と申し出てたと、詰まらぬ噂話を聞いた。
事実かね」
彼の目が鋭くなった
「妹に限って言えば、その様な事は御座いません。
彼女は、この祖国を誰よりも愛しております」
愛する人へ、襲い掛からんとする敵に、立ち向かう戦士の顔になる
「ゲルマン民族の興隆を、祈願して已まぬ、純真な娘で御座います」
男は、彼の真剣な態度に圧倒される
そして、一頻り笑うと、彼へ言葉を返し
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