第二部 1978年
ミンスクへ
原拠 その1
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彼は覚悟を決める
「同志将軍。昨日の会談の際、小官の不確実な言葉遣いで、民主共和国及び国家人民軍の威信を著しく傷つける様な行動を起こしてしまいました。
ベルンハルト中尉は、以上の様に命令通り発言致します」
ハンニバル大尉が尋ねた
「同志将軍。宜しいでしょうか」
少将は、机の上で手を組んでこちらを見る
「申せ」
ハンニバル大尉は彼の方を向いて、答えた
「同志ベルンハルト中尉への処分は如何様に為さるのでしょうか」
暫し悩んだ後、答える
「本来ならば懲戒処分や職責の?奪にまで及ぶような案件ではあるが、国家人民軍記念日も間近である。
軍事パレードに、戦術機部隊の幕僚が営倉入りして参加出来ないとなれば、我が隊の恥。
職務怠慢とまでは看做さないが、思想的再教育が妥当と考えている。
同志大尉、君の意見はどうだね」
少将は、政治将校の大尉に問うた
「エンゲルス全集から、『空想から科学への社会主義の発展』を読み、その感想文を一週間以内に提出する事と致す。
同志将軍、私の考えとしてはそれ位して当然だと思っています」
政治将校の判断に頷く
「同志ベルンハルト中尉へ、命ずる。
同志ヤウク少尉以下、幕僚3名と共に、エンゲルスの『空想から科学へ』の感想文を提出する事。
タイプ打ち、手書きは問わないが、凡そ3,000字以上、2万字以内の文書へ纏める事。
以上」
退室を赦されたベルンハルト中尉は、遅れた朝食を取りに食堂に向かう
その最中、再び《野獣》に遭遇した
青白く、気色悪い顔で、此方を窺う
「同志ベルンハルト中尉、君はまたとんでもない行動を起こしてしまった様だね」
男は薄気味悪い笑みを浮かべる
「同志少佐、あなた方には関係のない話です。
お引き取り下さい」
そう言って、彼の脇を通り過ぎようとする
蔑むような表情で此方を見ながら、答える
「同志中尉、君の言動は逐一《閻魔帳》に記させて貰う。
今から、国防大臣と議長に《陳情》させて頂く積りだよ」
乾いた笑いが響く
『陳情』
社会主義圏である東ドイツにおいて民衆の声を直接上層部に届けられる唯一の手段である
間接民主制や直接民主制の選挙制度を持たぬ彼の国に有って、口頭或いは文書での陳情は、非常に重要な意思表明の手段であった
通常であれば、職場や自治体を通じて、国に提出され、苦情係で処理
遅くとも3週間前後で中間報告が返答されるシステム
彼は、通常の手段ではないことを表明したのだ
直接国防評議会に顔が利くと、暗にベルンハルト中尉に示す
しかし、このアスクマン少佐の行動は、ソ連一辺倒であるシュミットを代表とするモスクワ一派には、現政権への阿諛追従(あゆついしょ
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