壱
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好ナル第三ノ目ヲ得タリ、不幸ハ亦完好ナル第三ノ目ヲ得タリ。嗚呼。
彼ノ初生、茫然トシテ我ガ懐ニ就キテ哭ク。其ノ長ゼシニ及ビ、猶哭キヲ好ム。余乃チ恨ムラクハ自ラ第三ノ目ヲ閉ヂタリ、其ノ心ニ通ゼンヲ得ズ。其ノ叔母ニ示ス、曰ク世間ノ醜惡ヲ懼レナリト。余輩之ヲ命ジ、常ニ第三ノ目ヲ閉ヂシム。而シテ寺子屋ニ之ヲ送リ、、師匠ハ連日之ヲ開導シタル、、彼處ノ兒童ト偕クス、漸ク回天セシヲ見ルべシ。
彼日々ニシテ長シツツ、身ハ日ニ窈窕ニナル、心ハ日ニ明瞭ニナル、青春ニ至ル甚ダシクハ其ノ叔母等ヲ親近セズ、人心ヲ讀メズ、人間ノ繁華ヲ愛シ、恒ニ里ニ流連シ、乃チ己ヲ以テ異類ト爲サザルナリ。
其ノ何日ヲ知ラズ、彼ノ子大ニ酒ヲ飲ミテ出デ、道中ノ大衆ノ心ヲ窺ヒ、咸ナ曰ク、斯ノ鵠ッノ半妖ハ、美人ナルカナ、何ヲ以テカ之ヲ姦スベキヤ、或ハ麻藥ヲ以テ之ヲ捉ル可シト。乃チ大ニ潸然トシテ、挺身シテ逃ゲテ去ル。終ニ地獄ノ赤熱ノ熔岩ノ下ニ之ヲ得可カラズ、而シテ殞命ヲ告ゲタリ。
嗟乎、往事豈ニ回想スルニ堪フルカ。余悲痛シテ死ヲ欲シケリ、長姉亦心痛シテ我ト宮本君ヲ慰ム。葬儀ノ翌日、余起キテ宮本君ヲ見ズ、其ノ持ツ所ハ唯其ノ從來ノ朝服ナリ。一書曰、我此處ニ於テ人生ノ義ヲ得可カラズ。之ヲ追フヲ欲ス、所謂大結界已ニ前日ヨリ具シタリ斷々然トシテ出入スル難シ。余痛ク叫ビテ昏?シタリ、長姉來リテ我ヲ救ヘタリ。
余ノ心眞ニ死灰ノ如キ、乃チ己ヲ得ズ而モ苟生ス、數十年ハ一日ノ如キ。
蓋シ無常ノ間、業力ノ下、萬人其ノ情欲ノ爲、余亦脱スルヲ得ズ。世人皆我ヲ忘ル、我亦平生ノ慘痛ノ事ヲ忘ルヲ欲ス、今日乃チ冥々ヨリ之ヲ想起ス、嘆ク可シ、嘆ク可シ。
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