外伝 夕張編 01 平賀の妄執
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実際には、雷撃による片舷進水は急激な横傾斜を生じ、復元力が急速に消失し横転沈没する艦艇が続出した。そもそも、横傾斜が大きくなる時点で砲が撃ちにくくなるだけでなく、稼働側スクリューが水面に近づき速度も低下するため、敵に撃沈される危険が高かった
その一方、米国の軍艦には《縦隔壁》なるものは存在せず、《横隔壁》のみの構造を堅持していた。たしかにこの構造だと、片舷から機関室に進水した場合、左右の機関が共に進水し航行不能に陥りはするが、横傾斜はしないので横転はせず沈下するのみである。沈没しなければ、曳航回収が可能なので、修理をして再び戦場へ送り出す事が出来た
そして米軍艦は更なる進化を遂げる。画期的なレフトエンジン型・・・いわゆるシフト配置方式を取り入れた。これは従来の横隔壁構造はそのままに、機関を左右非対称の前後に配置し、それぞれ別の部屋にする方式である
この方式だと、例えば左側の機関へ進水しても、右側の機関は横隔壁で隔てられた後方の部屋にあるため、航行不能に陥る事はなくなった。しかも横傾斜が生じないため、横転沈没の危険性も少なく、砲撃にも支障を生じにくい。速度低下も、日本の艦艇に比べれば遙かに低下しずらかった
米国は頑なに縦隔壁構造を避け、試行錯誤の末、この合理的な機関配置に行き着いたのである。これは、ゆったりとした余裕のある船体設計の米軍艦には出来ても、カツカツに切り詰められた日本の軍艦の設計思想からは出てこない発想であった
鹵獲した米艦艇の全てがシフト配置方式を採用している事を知り、大戦末期の《松型駆逐艦》になって、ようやくシフト配置方式が採用されたが、戦局は既に終盤に差し掛かっていた・・・・もう手遅れであった
兵装実験軽巡夕張・・・彼女の設計思想が採用された事が、限られた資材でより多くの戦果を上げられる小型で強力な軍艦を多数輩出したが・・・・同時に、柔軟で新しい発想を阻害し、ダメージコントロールという観点に於いては致命的だった
魚雷に弱い日本の軍艦を輩出した要因と言えた
艦娘として覚醒した夕張は、その事実を厳正に受け止めていた。そして・・・
「ま、技術と技術が凌ぎを削っていた時代なんだもの・・・そういう事もあるよね?」
と、案外とサバサバしていた
そして、兵装実験軽巡夕張、そしてそれを生み出した平賀の妄執が、彼女の胸の奥深くでドス黒く渦巻いていた
「確かに、あの時はシフト配置方式にしてやられたけどね・・・」
「次は・・・・私たちの番だから・・・」
そして時は流れ、夕張は艦娘として再びこの世界に舞い
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