第二部 1978年
ミンスクへ
ベルリン その6
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同日、夕刻迫る議長公邸の一室に男が二人居た
椅子に反り返る男は、目の前の初老の男に尋ねる
「貴様に、通産官僚としての率直な意見を聞きたい」
新しく議長代行に就いた男の問いに、アーベル・ブレーメは応じた
「先ず、海軍の戦艦整備計画は頂けん。
今更BETA対策とは言え、塩漬けにしていた戦艦を再設計して建造するなぞ、国費の無駄だ。
費用対効果を考えれば、ケーニヒスベルクのバルチック艦隊でも借りた方が安い」
彼は敢て、カリーニングラードではなく、旧名のケーニヒスベルクの名称を使う
敗戦の結果、奪取されたあの東プロイセンの地に居座るソ連艦隊
役に立たない無用の長物という内心からの不満を込めて、そう言い放った
「俺も其れが出来たなら、お前を呼ばんよ」
男は彼の方を一瞥する
彼の瞳は、眼鏡越しではあるが血走っており、憤懣遣る方無い様が見て取れた
「であろうな。
誰が、こんな馬鹿げた青写真を描いたか……」
ソ連の弱体化を受けて、人民海軍は嘗て国防軍時代に計画されていたフリードヒ・デア・グロッセ級の建造を実施しようとしていた
地域海軍というより、沿岸海軍に近い人民海軍にとって、戦艦は扱いに困る存在
経済規模や人口比から考えて、軽武装の哨戒艇や警備艦の運用ですら、相応の負担を強いた
アーベルは、この無計画な軍拡を危惧した
幾ら、米国の援助が見込める可能性が出てきたとはいえ、捕らぬ狸の皮算用にしか過ぎない
あの1970年代初頭までのソ連からの潤沢な支援を受けて居た時であっても、軽武装の海軍の維持は困難を極めた
戦艦運用のノウハウや人員、今から新艦建造などをすれば、国内経済にどの様な影響が出るか
ただでさえ、国有企業のトラバントは何年も納期を待たせている状態
10万の国家保安省職員が1600万の住民の不満を抑え込んではいるが、何時どの様に爆発するか、解らない……
保安省、前衛党、其の物の力の裏付けは、飽く迄駐留ソ連軍有っての物だ
それが完全撤退した際、この国の国民が食料品や日用品などの耐久消費財不足に何時まで我慢できるであろうか……
ソ連での物不足は著しく、市中では無計画のデモや暴動が多発していると聞く
我が国の場合は、人口も少なく、国土も手狭だ……
何より、同じベルリンの中に離島の如く西側社会の西ベルリンがあるのだ
壁を挟んだとはいえ、住民はその生活実態をよく知っている
幾ら、統計や数字を操作しても、その事実は変えられない
現に、ドイツマルク一つをとっても東西で交換レートが5倍の差が開いている
(1978年当時、一西ドイツ・マルク=115円)
高々、市民が日常生活や食事の際に25マルク使うだけでも苦労するような経済規模でしかないのだ……
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