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冥王来訪
第二部 1978年
ミンスクへ
ベルリン その4
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 再び時間は遡る
昨日の夕刻の事をベルンハルト中尉は思い起こしていた
あの「褐色の野獣」に初めて相対した時のことを……
 何時も通り、第一戦車軍団がある陸軍基地で勤務していた時、出入り口で騒動が起きた
保安省の制服を着た係員が数名、自動車で乗り付ける
其処に警備兵や部隊付きの下士官等が集まり、一寸した口論へ発展
同行していた保安省少尉が拳銃を取り出すと蜂の巣を突いた様な騒ぎ
その時に、最高階級であった彼が呼び出されたのだ

 中隊を事実上仕切る最先任上級曹長に連れられ、彼は門へ急ぐ
「保安省の馬鹿共が車で乗り付けております。
どうか、追い返してやって下さい」
着古しの空軍勤務服ではなく、真新しい陸軍の灰色折襟服を着て、官帽を被るベルンハルト中尉
乗馬ズボンの替りに、ストレート型のズボンを履く
足元は営内と言う事で、黒色の短靴
その表面は、鏡の様に磨き上げられている
その服装は、まるで空軍戦闘機部隊の再編に伴い陸軍へと一時的に預かりと為っている彼の立場を示している
当人の心情は兎も角、傍から見てその様に受け取れる状態であった
 
 彼は、脇を歩く曹長に問うた
「軍団長はどうした」
彼に曹長は歩きながら返答する
「同志少佐や幕僚と共に、国防省に出頭中です」
深緑の別襟が付いた灰色の折襟制服を身に着け、船形略帽を被り、第二ボタンを開けて手帳を挟む
上着と同色のズボンに、膝下までの合成皮革の長靴を履き、ほぼ同じ速度で歩く
彼等のような先任下士官は《槍》と称され、下士官・兵のまとめ役
国防軍時代は、「中隊の母」等と呼ばれた

彼の口から呪うような言葉が出る
「今日は厄日だ。
それで、拳銃(ピストル)強盗(ギャング)(ごっこ)びをやってる馬鹿が居ると聞いたが」
曹長は、彼の言葉に振り返る
「あの金髪の小僧です」
右の食指で、件の人物を指し示す
「ピストルを出したので、見せしめに重機関銃を衛所から覗かせたら、ケースに仕舞いました」
彼は顔を(しか)める
「俺も色々な悪戯(いたずら)は遣ったが、他職場に銃を持ち込んで見せびらかす様な真似はしたことはないぞ」
内心の不安を隠す為に、敢て強がって見せた
「あいつ等は、段平(ダンビラ)を振り回す匪賊か」
彼の言葉を肯定する
「確かに法匪には違いありませんな」
《法匪》
曹長の言い放った一言が重くのしかかる
保安省は、かの牽制を誇ったKGBやNKVD等のチェーカー機関と負けず劣らず、民衆を弄んだ
法解釈を(ほしいまま)に、一字一句の条文通りに社会を統制
僅か30年足らずで国民総監視体制を築き上げたのだ

 彼等はゆっくりと、その場に近づく
門の所には数名の保安省職員を取り囲むようにおよそ40名ほどの兵士達が立っており、口々に不満を
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