第四章
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「貴方のお屋敷からここまで」
「何、街の人達に失礼をした」
「失礼を?」
「私の屋敷からここまで一直線に歩いたのだ」
「一直線とは」
「壁を抜けさせてもらった」
ラスプーチンは笑って述べた。
「今頃私が通ったところでは騒ぎになっているだろうが」
「壁を抜けられたとは」
「この通り」
実に素気なくだった。
ラスプーチンは傍にあった壁に手をやった、すると。
彼の手は白い壁の中に沈む様に入った、まるで水の中に手を入れる様に。これには伯爵も家の者達も驚いたが。
ラスプーチンだけは平気な顔で笑顔で話した。
「私にとっては普通のことで」
「壁を抜けることも」
「全ては神の御業」
その笑顔で言うのだった。
「それだけのこと」
「そうですか、それでなのですか」
「ここまで歩いてきたので」
壁を抜けてというのだ。
「この時間に来ることが出来た」
「そういうことですね」
「左様、それでは」
「はい、これよりですね」
「他の客人の方々も来られたので」
見ればそうだった、伯爵の屋敷に次々と人が来た。
「飲んで食べて」
「楽しみますか」
「そのことを楽しみにしていたので」
ラスプーチンはこの時も笑顔だった、そうしてだった。
実際に彼は宴を楽しんだ、この時に伯爵や他の客人達に若しドイツとの戦争が近くなればこの国から一時でも去る様にと言った。
伯爵はこの日の宴の後で実際にペテルブルグの街で家の中にラスプーチンが失礼すると言って急に壁から出て来て入ってきてすたすたとまた壁を抜けて立ち去ったという話を聞いた、その家は何軒もあった。
彼はその話を聞いてラスプーチンの宴が終わる時に言い残した言葉を受けてオーストリアの皇太子夫妻が暗殺されドイツが動こうとした時にだった。
家族だけでなく使用人も財産も全て持ち宴に来ていた者達にも話して家が婚姻を結んでいる相手がいるイギリスに亡命した、客人達の多くもそうしたが。
彼は後の戦争だけでなく革命も見て執事に話した。
「ラスプーチン氏と交流を結んでおいてよかった」
「ありのままのあの方をご覧になってですね」
「そうだ、そうしてだ」
「我々は助かりましたね」
「そうなった、しかし今誰もが彼を悪く言う」
皇帝をたぶらかした怪僧とだ。
「その様にな、しかしな」
「それは違うことをですね」
「私は伝える、そうすればな」
「今は悪評に満ちていても」
「やがてわかる、だからな」
「伝えていかれますね」
「その様にしよう」
こう言ってだった。
伯爵は以後ラスプーチンの真の姿を伝えた、それは長い間嘘だと思われていたが。
今ではどうも真実らしいとなってきている、彼は実は好色な怪僧ではなく素朴で屈託のない人物であったと。
その中でそ
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