第一章
[2]次話
壁を
グレゴリィ=ラスプーチンは色々言われている人物である、まじないだけでなく様々な力を持っていると言われている。
だが貴族の中には彼をこう言う者がいた。
「インチキだ」
「ペテン師だ」
「あいつの言うことは全部出鱈目だ」
「まじないとか嘘に決まっている」
「信仰も怪しいものだ」
こう言うのだった。
「多くの愛人を持っている」
「その関係の派手さときたら異常だ」
「あんな女好きはいない」
「そもそもあの外見を見る」
「如何にも胡散臭いぞ」
粗末な服を着て黒い髪と髭をぼうぼうに伸ばし爛々と輝く金色の目という姿についても言うのだった。
「皇帝陛下をたぶらかしているんだ」
「皇后陛下は騙されている」
「あの男を取り除かねばならない」
「このロシアの為に」
「そうしなければならない」
絶対にとだ、彼等は言っていた。
しかしラスプーチンをよく知るイワドノフ=コイレフ伯爵、茶色の髪の毛で水色の目を持つ長身だが中世的な顔立ちの彼はラスプーチン自身に語った。
「貴方を嫌う人は多いです」
「そのことは私もわかっている」
ラスプーチンは穏やかな声で応えた。
「女性に目がないだの皇室を騙しているだのな」
「インチキだのと」
「全て知っている」
「そうですか」
「しかし人の噂は止められない」
ラスプーチンはこうも言った。
「だから」
「貴方は何もされないですか」
「ただ為すべきことをするだけだ」
こう言うのだった。
「私は」
「左様ですか」
「皇太子殿下のご病気を癒すのみ」
「そしてこのペテルブルグの者のですか」
「悩みを聞いて救う」
「それだけですか」
「神の御教えに従い」
そしてというのだ。
「そうするのみ」
「そうですか」
「全ての者とな」
このペテルブルグのというのだ。
「そうしていく」
「皇室や貴族だけでなく」
「平民もっと言えばな」
「ロマニや兵士とも」
「誰ともだ」
まさにというのだ。
「交わる」
「そうされていきますね」
「神の御前では誰もが同じだからな」
「それ故にですね」
「私はそうする、そしてだ」
ラスプーチンはさらに話した。
「私は飾ることが苦手だ」
「だから今もその服ですね」
「この服が一番いい」
粗末なそれがというのだ。
「奇麗にはしているが」
「入浴はお好きですね」
「そして靴にもな」
「油を塗られていますね」
「そのうえで誰でもだ」
「貴方に相談があれば」
「そして宴に呼んでくれれば」
それが貴族でも平民でも物乞いでも兵士でもというのだ。
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