第一章
[2]次話
入内雀
平安の頃の話である。
左近中将藤原実方は非常に優れた歌人であり藤家の出であることと共にそのことでも非常に知られていた。
だがそれだけに非常に気位が高くかつ気性の激しいところがあった、この時彼は自分の歌を藤原行成に言われていた。
行成は少し言っただけだったがそれでもだった。
実方は顔を赤くさせて行成につかみかからんばかりに言った。
「貴殿それは言い過ぎであろう」
「そうでしょうか」
「如何にも、私の歌はまさに当代一」
その自負を言うのだった。
「その歌をそこまで言われるとは」
「そこまでも言われますが然程言っていませんが」
「いや、言われた」
自分の歌を褒められる以外のことを言われたので怒っているのだ。
「それ故に私は言うのだ」
「そうですか」
「その言葉取り消されよ」
行成に怒った顔のまま迫った。
「さもなければ私も怒りますぞ」
「もう怒っておられるのでは。落ち着かれて下さい」
「もう落ち着いている」
「いえ、そうは見えませぬが」
行成は明らかに戸惑っていた、実方の怒りに。周りもそんな二人を止めようとしたがここでだった。
事態を見ておられた一条帝はその周りの者にこう言われた。
「止めることはない、ここは二人を見るのだ」
「ですか早くお止めしないと」
「大事になるかと」
「ですから今のうちにです」
「止めに入るべきでは」
「前から左近中将の振る舞いは気になっていた」
帝はまずは彼のことを言われた。
「だからな」
「ここはですか」
「中将殿を見る為にも」
「あえてですか」
「そうする、また地下人は位は低いが真面目な者でよく働いている」
帝は行成のことも言われた。
「ここでどういった振る舞いをするか見たい」
「ではお二方を見る」
「その為にですか」
「ここは動かぬ」
「そうしますか」
「その様にする」
こう言ってだった。
帝はご自身が見られそしてだった。
周りの者達も止められた、それで宮中の者達は二人を見守ったが。
実方の怒りは増し行成は落ち着いたままだった、そして。
激昂した彼は遂に立ち上がり何と行成の冠を掴んで庭に投げ捨てた、人の冠や烏帽子を取って捨てるなぞ当時は非礼の極みだった。
それでだ、宮中の誰もが驚いた。
「何と」
「これは酷い」
「これは立場があろうともなかろうともしてはいかぬ」
「あまりにも非礼な振る舞い」
「中将殿それはあまりだ」
「酷いにも程がある」
「それだけではない」
帝も実方の振る舞いには顔を顰められた、だが。
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