第二部 1978年
ミンスクへ
ベルリン その3
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西ドイツの暫定首都ボン
其処に居を構える、在ドイツ連邦共和国日本国大使館
その館内を走ってくる男が見える
筋肉質で屈強な体付き、戦士を思わせる風格
蓄えた口髭と、豊かな髪
黒の様な深い濃紺で、細身のダブルブレストのスーツ
六つボタンで、襟は、ピークドラペル
シャツは薄い水色で、ネクタイは濃紺
靴は、濃い茶色のプレーントゥの造りで、厚い革の靴底
地味ではあるが、生地や造りからして、身に着ける物が全てが上等なカスタムメイドと判る
勢いよく、大使室のドアが開けられる
「閣下、今回の件で説明をお願い致します。
小官は納得出来ません」
生憎、大使は、室内で電話中であった
黒い受話器を右手で持ち、右耳に当てている
彼は、その官吏の事を左手で指示する
外側に向い掌を二度降る
彼の意図を理解した官吏は、部屋を出た
30分後、件の官吏は呼び出された
部屋に入ると大きな事務机の上に有る黒電話と灰皿が目に入る
室内には、金庫と両側にガラス戸で開閉する書棚
書棚には、外交協会発行の直近20年ほどの「ソ連人物録」や「東ドイツ人物録」が並ぶ
個人情報の取集が困難な共産圏においてはこの様な外交協会発行の個人目録の役目は大きい
表の人事や機関誌に出てくる人間であっても、杳として足取りが掴めなくなる
共産圏では、その様な事が儘有るのだ
大使は、来客用のソファーとテーブルを指で指し示す
「まあ、座りなさい」
一礼をすると、官吏は座った
その様子を見て、大使は引き出しよりパイプと葉タバコを出す
パイプは、ブライヤー製で、一般的なビリヤード型
タバコを押すようにして、パイプに詰めると、柄の長いマッチで炙る
一旦炙った後、再び火を点け、軽く吹かす
ゆっくり噴き出すと、何とも言えぬラム酒の香りが漂う
「この香りは《桃山》ですな」
専売公社が発売するタバコの銘柄を当てる
彼は眉を動かす
この男の見識の広さに、驚いた様子が傍から見て取れる
「君は、パイプは遣らんと聞いたが……」
「独特の香りです。一度嗅いだら忘れませんよ」
彼は目の前の官吏に、顔を向ける
「今回の東ドイツ非公式訪問の件は、省内でも喧々諤々の議論が起きた。
私とて、本音を言えば反対だ。
何も、殿下からお預かりしている禁軍将兵を敵地に差し出す愚かな策には乗らん。
だが、これが同盟国からの要請であれば、話は違う」
官吏は、驚いた表情で彼を見る
「先立つ、米国・東独間の貿易交渉の際、米側が食料購入を東独に求めた。
その折、東独側から、見返りとして西ドイツに展開している日本軍関係者のベルリン訪問を要請された。
米側は、飽く迄日本は主権を有する独立国であるので、自らに決定権は無いと
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