第一章
[2]次話
犬の温もりと優しさ
その話を聞いてだった。
クロアチアの救助団体に所属しているゲリア=ストイコビッチ金髪碧眼で中背だが引き締まった体格の彼は過去を顰めさせて先輩に尋ねた。
「この寒さで、ですか」
「そうだ、もう何時間も経っている」
先輩は苦い顔で彼に答えた。
「だからな」
「かなり危ないですね」
「すぐに救助に向かうが」
「それでもですね」
「最悪の事態も覚悟しておこう」
「わかりました」
ストイコビッチは先輩の言葉に頷いてだった。
アドリア海沿岸のある山に入った、するとそこに中年の男二人がいて救助隊の面々に真剣な顔で話した。
「お願いします」
「早く助けて下さい」
「何とかまだ生きていますが」
「すぐにでも」
「わかっています」
ストイコビッチは崖に愛犬のノースと共に落ちたグレア=ゲルギッチの救助を約束した。そうしてだった。
すぐに彼が落ちた崖に同僚達と共に向かった、すると。
そこに黒い髪と目で筋骨隆々の男が倒れていた、そして。
アラスカン=マラミュートの雄の犬もいた、その犬がだ。
ゲルギッチに寄り添っていた、それでだった。
「ご無事ですか」
「はい、足は怪我をして痛いですが」
ゲルギッチはストイコビッチに真剣な顔で答えた。
「この通りです」
「この寒さでもですね」
「はい、この子がずっと寄り添ってくれたんで」
「クゥ〜〜ン」
その犬を見て話した、犬もここで小さく鳴いた。
「何とか」
「寄り添って身体を暖めてくれていたんですね」
「そうです、この寒さですが」
それでもというのだ。
「ノースのお陰で」
「そうですか、それは何よりです」
「助かりました、有り難うノース」
「ワンッ」
ノースは飼い主の感謝の言葉に一声鳴いて応えた、そうして彼と共に救助された。ゲルギッチは足の踵の骨を骨折していたが命に別状はなくストイコビッチも胸を撫で下ろした。
その後ストイコビッチは仕事の研修でイタリアのトリエステに赴いたがそこでだった。
「一週間ですか」
「はい、ハイキングに出たんですが」
通報した若い女性は婚約者のことを彼に不安に満ちた顔で話した。
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