『ヴォイド』の頭
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「これはこれはジャック様、ご機嫌麗しゅう」
「久しぶり、オルトロス……さん」
「このような老いぼれに敬称はもったいのうございます。これまでのように、呼び捨てでお願い
ください。アルマからあなた様の帰還を告げられ、私望外の至りでございます」
『ヴォイド』の事務所で、ジャックは若頭のオルトロスと対面していた。
その特徴的な義眼を除いては、この老人はごくごく普通の老紳士に見えた。慇懃な口調に加え、独特の雰囲気もまとっていない。王国の暗部を担う闇の組織の(表向きの)頭領とは、とても思えない。
その意味する恐ろしさに、ジャックは今になってようやく気付けた。昔、そう、まだリドリーを失っていなかったころには気づけなかった『凄み』である。これこそが、闇に生きるものの到達点なのだろう。
闇をまとうのではなく、闇と同化し、従えて隠す。闇を闇と感じさせないことが、どれほどの
技量を要するものか。
「さてさて、この老いぼれの昔話に突き合わせてはあなた様のお時間を損なうばかりでござい
ます。ジャック様、私めにいかようで?」
「あ、うん、オルトロスさんっていうか……ニュクスさんになんだけどさ」
「ほお?」
『ヴォイド』の真の頭、ラジアータを遠く離れた北の大地に住まう『魔族』の男ニュクス。
その存在は秘されており、他のギルドはおろかここ『ヴォイド』においてさえ、ごく一部の幹部を除いては知られていなかった。
かつてジャックはこのニュクスを下して、その強大な力を貸り、妖精や龍との戦いに挑んだのだ。
「北の大地に行くことがあって、そこで知り合った人にニュクスさんのこと聞かれてさ。
この手紙を、渡してくれって」
書簡にしては厳重な風がされ、気品ある装飾まであしらわれた手紙をジャックは渡した。
「これはこれは……あの方も喜びましょうぞ」
オルトロスには珍しく、口調に昂奮がまじっていた。
彼らが、なにがしかの『野心』を持っていることはジャックも知らされていたが、その詳細についてまでは明かされていなかった。この手紙が、それに関係しているのだろうか?
「アルマもいるし、俺が直接行くとまずいかなって」
「お気遣いに感謝いたしまする。どうぞおくつろぎを……と言いたいところですが」
「うん、すぐに出るよ」
「あの方に代り重ねて礼を申しまする。何かお役に立てることがありますればなんなりと」
深々と頭を下げるオルトロスへ会釈を返し、ジャックは事務室を出た。
アルマをいなし、出入り口へと向かう。他にも回らなければならないところは多い。
「やあ」
「あ、リーリエ……」
奈落獣の出入り口で、ジャックはリーリエと鉢合わせた。
気だるげな褐色の少女に隠れ
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