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『ラジアータ・ストーリーズ 龍の目覚め』
夜と欲望の黒街にて

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 どのような街であろうとも、暗部を担う場は存在する。
 ここラジアータでは、盗賊ギルドがそれを請け負い、『奈落獣』と呼ばれるスラム街の周辺を根城としていた。時に城の重臣が訪れることもあり、様々な陰謀が張り巡らされる蜘蛛の巣である。

 盗賊という響きからは、殺人、誘拐、強盗と言った血なまぐさいものを連想するが、それ以上に彼らが重視しているのは情報であった。こと、王国内の情報において、『ヴォイド』以上に精通している機関は存在しない。
 その網に、一人の『余所者』が引っ掛かった。

「おっとっと、困るっすよお客さん。観光はよそでやってもらわないと」

「んだあ」

 『奈落獣』へまっすぐに向かってくる『余所者』に、早速ヴォイドからの挨拶が届いた。構成員のアルマとジョケルが、『穏便』に『余所者』へお引き取りを願う。

「ここらは治安が悪いんすよ、怪我しちまうかも」

「んだんだ」

 片や猫を思わせる青年、片やその倍以上の体躯はありそうな片目で半裸の大男。ただよう堅気にはない雰囲気に当てられれば、大抵の者は忠告に従い踵を返すだろう。

 だが、『余所者』は踵を返すでもなく言葉を返すでもなく。ただ、じっと二人を見つめていた。
 見つめると言っても、フードで顔を隠しているのでその表情はようと知れなかったが。

「ほら、行った行った。オレらは忙しいんすよ」

「肉う、食うだあ」

 焦れたアルマは、武器を取り出して『余所者』へと向ける。精一杯格好つけてはいるが、お世辞にも手練れには見えない技量だ。

「痛い目に―」

「全然変わってないな、二人ともさ」

 二人は目を丸くし、お互いに顔を見合わせた。ようやく『余所者』が発した言葉の不可解さと、その声に『二人とも』が聞き覚えがあったからだ。

「ああ? アンター」

「リンカとフラウはいる?」

 フードを外した『余所者』に、二人はあっと息を呑んだ。 

 見覚えのある顔であった。
 そう、かつてお忍びで城下を歩いていた王女をさらったとき、護衛役として控えていて一戦交えた、戦士ギルド『テアトル・ヴァンクール』の『チーム・ヘクトン』の一員。
 その後、紆余曲折を経て力を貸すことを誓い、『テアトル』の隊長にのぼりつめ、さらには妖精との戦争で戦功をあげ龍さえも倒した英雄。

「アニキ?」

「おんめえ?」

『龍殺し』。
ジャック・ラッセルがそこにいた。
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