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冥王来訪
第二部 1978年
ミンスクへ
ベルリン
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そもそも高緯度で寒冷、降水量も少なく穀物収穫が不安定な不毛の地……
 やはり、考えられるのは計画経済による物流遅滞や需要への不十分な対応
現実の社会は、象牙の塔や衙門(がもん)の奥深くに居る鴻儒(こうじゅ)や官吏が思い描く物とは違い、無数の変化と不確実性が混在する
個別具体的な経験と知識が必要で、それを反映した政策決定
何よりも、費用対効果が最重要課題である
共産党の計画経済では、それを一切無視するという重大な欠陥
それ故、恒常的な食料や日用品に代表される耐久消費財不足が起きる
この悪循環を改善せぬ限り、彼の地に安寧は訪れぬであろう
 
 二月下旬とはいえ、東ベルリンは寒い
あの日本の様な高湿度で底から冷える物は違い、乾燥しきった何とも表現できぬ寒さ
厚く重い膝丈の外套は、薄いキルティングのライナーが付いているが、其れとて不足する
通信販売で買った羽毛服(ダウンウェア)などを着ていたら、どれ程良かったであろう
ヒマラヤ・カラコルム山脈登頂成功を謳い文句にして居り、大仰な頭巾が付いて嵩張るが、軽くて暖かった
私服でなかったのが悔やまれる……

観光案内とはいえ、退屈であった
彼は、端の方に居て、終始受け身で押し黙って過ごすことに努めた
この訪問の真の目的は、ゼオライマーのパイロットの洗い出し、及び接触
そう思い、極力関わってくる東ドイツ側の人員を避けた
細々な対応は、美久に任せた
彼女は、そつ無く熟せるであろう
推論型AIによって、人間の表情や動向から適切な判断を下し、言語も内蔵する機能によって意思疎通に問題は無かろう
勘の良い人間なら、言葉に何処か違和感を感じるかもしれないが、外国人だという先入観で、緩和される筈……

 退屈な観光の合間にカフェに寄った
市街地は、ざっと見た所、終戦後の古い街並みと新築の共和国宮殿ばかりが目立つ異様な風景
廃墟のようなレンガ造りの市街は薄暗く、人の気配も疎ら
囁くような話声で、この国を支配する総監視体制の強固さを実感させる
 給仕によって出された大ぶりなケーキは、生地もクリームも見るからに粗悪、言葉に出来ぬ様な不味さ
コーヒーも、紅茶も、水で増した様な薄さであった
思えば、途中で頬張った焼きソーセージも、西ドイツの西ベルリン市街で食した物より質が悪く、ゴムを噛む様な、表現出来ぬ不味さであった
一生忘れ得ぬ味であろう事を、彼は思うた
 この国にあって、高級幹部や党中央、司法、教育関係者であれば相応に良い暮らしは出来よう
見た所、整備された高層住宅なども市街の一部には見える
しかし、その他大勢を占める一般市民にとっては暗く厳しい環境
ソ連の衛星国として、自由な表現、際限なき個人所有、司法からの保護も怪しい
この地獄の様な国に住まう軍人とはどの様に心構えを持
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