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入れ墨というもの
第三章
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 大阪でも有名な寿司職人になった、握る寿司は兎角美味く彼は収入には困らなくなった。それで気付けば一千万の貯金が出来たが。
「彫らんか」
「今度結婚するんや」
 高坂は彫り職人の家で職人に話した。
「それでそれからはな」
「何かともの入りやな」
「店も古くなってるし建て替えなあかん」
「そっちのお金もいるな」
「かなりな、それで一千万あっても」
「入れ墨にはやな」
「そっちに使うなんてな」
 とてもというのだ。
「考えられんわ」
「ほなこの話はやな」
「なかったことにして欲しいわ」
「それやったらええ、入れ墨は入れるのも大変やし消すのも大変でな」
「痛くて手間がかかってお金もめっちゃかかる」
「それでそうした筋のモンと思われる」
 そうしたものだというのだ。
「ええことはな」
「ないな」
「それが現実やからな」  
 それ故にというのだ。
「軽く入れるもんやないわ」
「そやな」
「ヤクザ屋さんと思われる」
 痛く手間をかけて金も使ってまでしてというのだ。
「それでもええならや」
「入れるもんやな」
「そや、そやからあんたがそう思うんならな」
「もう入れ墨はやな」
「入れんことや、美味い寿司を握って」 
 そうしてというのだ。
「やっていったらええわ」
「ほなそうするな」
 高坂も頷いた、そうしてだった。
 彼は結婚して店も建て替えてそれからも寿司職人として暮らしていった、そのうえで難波のある風呂屋によく通い。
 令和になって孫をその風呂屋に連れて行って孫に話した。
「祖父ちゃんは昔やんちゃで入れ墨入れようと思ってたんや」
「そうだったんだ」
「ああ、けれど入れてへんやろ」
「うん、どうしてなの?」
 孫の俊彦は祖父に聞いた、長男の息子で顔は父と祖父にそっくりである。
「祖父ちゃん入れなかったの?」
「金がかかって痛い思いして手間もかかってな」
 そうしてというのだ。
「ヤクザ屋さんと思われるからや」
「ええことないから?」
「そや、やんちゃで高校卒業したら入れようと思って」
 そうしてというのだ。
「お金貯めてからやと言われてその分のお金貯まったけどな」
「入れ墨は入れんかったんやね」
「祖母ちゃんと結婚して今のお店に建て替えるお金に使ったんや」
「そうだったんだ」
「そっちの方が大事やからな、そやから自分もや」
「入れ墨入れるのならなんや」
「他の大事なことに使うんや」
「そうしたらええねんね」
「そや、ほな今から身体洗おうな」 
 脱衣場で服を脱いで孫を風呂場に入れた、そうして彼と一緒に風呂を楽しんだ。その店には入れ墨お断りの一文があった。


入れ墨というもの   完


                   2022・1・2
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