第二部 1978年
ミンスクへ
我が妹よ その2
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政変の報に接したのはワルシャワ入城後であった
まだポーランド側での報道はないが、噂話では広まっている様子
現地語が出来ない彼等には、詳しい内容は分からなかったが、委員長が辞職したらしいことは漏れ伝わって来る
ユルゲンは悔やんだ
あの父が如く、数か国語を自在に操り、市井の人々から本音を聞けたらどれだけ良かったか……
しかし今の立場は、人民軍中尉
無闇に聞けば、彼等も訝しがって話はしない
もどかしい気持ちになる
本音を言えば、誰が首脳になってもドイツはソ連の隷属の下
ソ連は、彼等なりにドイツに気を使ってはいるが、WTO(ワルシャワ条約機構)から離れるようなことをすれば許しはしない
嘗て、アーベルやシュトラハヴィッツが話していた様に、ソ連が軍事行動をする危険性は十二分にある
己が都合で、傀儡政権の首を挿げ替える事さえ、厭わない
いずれにせよ、社会主義の一党独裁体制下では、憲章や法典に定められたプロレタリアの自由も平等もない
5年前のソ連留学の時、ソ連軍は味方ごと核爆弾で焼いた
BETAを倒す為には、市民の死すら厭わないあの醜悪な政治体制……
二百機の戦略爆撃機に、千発の核弾頭を装備し、カザフスタン西部を核飽和攻撃で焼いた
あの悍ましい光景が、鮮明に蘇る
核による遅滞戦術……
中共ではハイヴ攻略まで取られていたと聞く……
自らが推し進める《光線級吶喊》戦術
これは正しいのであろうか…
闇雲に兵を損耗させるだけではなかろうか…
やはり、嘗てシュトラハヴィッツが提唱していた諸兵科連合部隊による運用で戦うべきか……
様々な思いを逡巡させていると、心配そうな顔つきでヤウクが話しかけて来る
いつもの勤務服ではなく、深緑の綿入れ野戦服を着こみ、頭には防寒帽
手には、磨かれたアルミ製のマグカップを二つ持ち、中には湯気が立つコーヒー
「飲めよ。寒いだろう」
馨しい豆の香りがする
息を吹きかけ、冷ましながら、静かに口に含む
これは代用コーヒーではなく、本物だ
「どこで手に入れた」
「母が工面してくれたのさ……」
ふと、満天を仰ぐ
月明りに照らされた木々の間を、飄々と寒風が通り抜ける
降り積もった雪には、幾つもの足跡と何列もの轍……
彼はヤウクの言葉を聞いて、在りし日の家族を思い起こす
まだ父が健在で、愛しい妹が幼子であった頃、美しい母は傍にいてくれた
だが、寂しさから間男に走り、生き別れる
異父弟も、もう入学する頃合いであろう
自然と目が潤み、涙が流れ落ちる
脇に居るヨーク・ヤウクを、まじまじと見る
彼の生い立ちは、自身より壮絶
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