五十六 逃げ水
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「な、なんで……」
力が抜け、地面に尻餅をつく。
そのまま全身を小刻みに震えさせる彼女の変わり様に、困惑すると同時に、シカマルは悟った。
【心転身の術】は確かに発動した。
だが…──。
「どうして、あんな…冗談でしょ…!?」
青褪めた顔でいのは唇をわななかせる。
血の気が引いた顔で、彼女はまるで幽霊でも視たかのように取り乱していた。
「凄いな、二秒もったのか」
白フードの心底驚いたような声音が、シカマルの耳に届く。
それだけでシカマルは察した。
いのは自ら、術を解いたのだ。
精神を乗っ取ろうと相手の…白フードの内面に触れて、追い出されたわけでも術が効かなかったわけでもなく…──。
「なんで正気を保っていられるの…生きて、いられるのよ…!?」
いのの叫びに、ナルトは沈黙で返した。
静かに笑む。
その笑みが怖ろしく、いのの足が自然と後退する。
言葉にあらわすのさえ難しい。あんなに深く冷たい闇。
一瞬で発狂してしまうほどの。筆舌に尽くし難い恐怖。
耐え切れずに自ら【心転身の術】を解除したというのに、身体の震えが止まらない。
それほどの地獄だった。
地獄以上のナニカだった。
あれほどの地獄をその身に抱えている人間が正気を保っていられる事自体が信じられない。
「なんなの…どうして、そんな…こんな状態で、生きていられるの…」
ほとんど独り言のようないのの言葉に、ナルトは困ったように双眸を細めた。
体内に巣食う存在を抑え込む。
一歩間違えれば一瞬で呑み込まれてしまう闇を常に耐え続けている彼は、自身の内側に触れて慄く彼女を慰めた。
己自身がもっとずっと、いつどうなるかわからない地獄を抱えているにもかかわらず。
「いきるさ…さいごのその時まで」
その声音は安心させるような穏やかなモノだった。
「それが俺の“夢”だから」
「…そろそろ行こう、飛段」
「殺さなくていいのかぁ?」
気の毒そうに憐憫の眼差しでいのを一瞥した後、促す。
従いつつも問うた飛段に、ナルトは一変して、冷然と「捨ておけ」と返した。
いのの取り乱し様を見遣って、シカマルの顔から冷や汗が無意識に滴り落ちる。
動けない、はずだ。
【影真似の術】の効果を遺憾なく発揮しているチャクラ刀で影を射抜かれているのだ。
それなのに、何故、こうも平然としているのか。
身体の自由を奪われているも同然なのに、主導権はこちらにあるはずなのに、微塵も動揺ひとつしない白フードを前に、シカマルの警戒心が更に高まる。
「…逃げられると思っているのか」
問う。
そ
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