後編
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「ひっ」
彼女が小さく悲鳴を上げて反射的に手を引っ込める。
【雪子。あなたはずっとここにいるのよ。どこにも行ってはダメ。】
それは男とも女ともつかない低い声だった。しかし口調は女性のものだ。
声の出所がわからない。直接 頭の中に響いてきているような気さえする。
「なぜだ。なぜ彼女を閉じ込めようとする。」
『彼』が慎重に周囲を見回しながら声を上げた。
【この宿を守れるのは雪子だけだからよ。雪子がいなくなると、これまでこの宿を守ってきたみんなの努力が無駄になる。この伝統ある宿は雪子が後を継いで守らなければならない。雪子はどこにも行かせない。】
雪子という名で呼ばれた彼女は、崩れるようにひざまずき、その場にうずくまった。すすり泣くような声が聞こえてくる。
「勝手なことを・・・。それは彼女が自分の意志で決めることだ。彼女が望むなら僕が彼女をここから連れ出す!」
【そんなことはさせない。邪魔をするというのなら、お前を許さない。】
その声とともに玄関扉の方からもの凄い圧が押し寄せてきた。視界が薄暗く霞むほど禍々しい瘴気が吹きつけてくる。
手で顔の前を覆いながら様子を窺うと、目の前の黒い和服の日本人形が異様な姿に変化し始めていた。
みるみると身体が膨らみ、大きくなって扉を塞いでいく。髪がうねりながら長く伸びてゆき、顔が赤黒く変色する。目じりが吊り上がり、顔面には深いしわが刻まれて、憤怒の表情が浮き上がる。その口は大きく裂けて凶暴な鋭く尖った歯をむき出し、ついには巨大な怪物へと変貌した。
周囲は瘴気のせいで薄暗くなっていた。
『彼』が手に持った剣を構える。
【雪子はここから絶対外に出さないイイイ! ! 外に出るなら一人で出ていけエエエ!!!】
雄叫びとともに、伸びた髪がねじれて無数の蛇のようになり、うなりを上げて襲い掛かってきた。
とっさに剣で捌きつつ身をかわし、うずくまったままの雪子の前まで後退する。
「ペルソナ!」
召喚器を自分の頭に向けて引き金を引き絞った。『彼』に呼び出された異形の悪魔が雷を放つ。
しかし巨大人形は髪で盾を作ってそれを防いだ。
すかさずペルソナを付け替え、続けて火炎攻撃を行うが、それも髪の盾に防がれてしまう。
(何かおかしい。手ごたえがまるでない。)
さらに疾風攻撃に切り替える。だがこの攻撃もまったく効果が無かった。
(あいつはシャドウとはどこか違う。いったいあれはなんなんだ。)
『彼』は攻めあぐねて焦りを感じた。その背後で顔を伏せたまま雪子が泣き叫ぶ。
「無理よ。あれには絶対に勝てない。やっぱり私は外に出られないのよ。」
その断定したような言葉に、『彼』はひっかかるものを感じた。
(なんでそう言い切れる。あいつの正体を知っているとでもいうのか・・・?)
そこで頭に一つの可能性がひらめいた。
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