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ペルソナ3 迷宮の妖女
中編
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彼女が向かったその先には、『男湯』と『女湯』という暖簾のかかった入口が並んでいた。入口の間には『大浴場』という看板がある。その下には、『朝と夜で場所が入れ替えになる』という旨の注意書きが書かれていた。
彼女はその前に立ち、これまでになく真剣な目つきで考え込んでいる。
『彼』はたどり着いた場所の意外さにしばらくあっけに取られていたが、気を取り直して「えーと、ここって風呂場? ここに来ようとしてたの? 」と訊いてみる。
「さっきの場所を見ていたら、急に『この先がお風呂場だったな』って思い出したの。頭に浮かんだとおり進んでみたら、思った通りここにたどりついた。」
振り向いたその顔からは虚ろな表情が消え、替わりにどこかやわらかい雰囲気のものが浮かんでいた。とにもかくにも記憶の一部が戻ったようだ。そしてこの場所が分かったということは、つまり『彼女はこの迷宮に何か関係がある存在だ』ということになる。
「他に何か思い出したことは?」
「それは・・・まだこれだけ。」
『彼』は彼女の答えにうなずくと、『男湯』と書かれた暖簾をくぐって中に入ってみた。彼女も黙って後をついてくる。中はスリッパを脱ぐために一段上がっており、さらに奥へ進むとそこには広い脱衣所があった。
壁沿いにロッカーが並び、5人ほど座れる洗面スペースの前は大きな鏡になっている。脇には浴用タオルが積み上げられた棚もある。壁に取り付けられた扇風機が首を振りながら風を送っていた。
「まるで温泉旅館だ。」
『彼』がそういうと、「温泉旅館・・・」と彼女がつぶやくように繰り返えした。
大鏡の反対側にある すりガラスの扉を開けてみる。横開きの扉はカラカラと軽い音を立てて開き、中からむっとする温かい湿気が押し寄せてきた。
中にはたっぷりと湯を張られた大きな湯舟があった。ちょろちょろと音を立てて、壁から湯が足されている。広い洗い場には複数の水栓とシャワー、それに加えてイスや桶が並んでいた。どう見ても旅館の大浴場だ。しかしどこにも窓がないところが不自然で、やはり重苦しい閉塞感があった。
これはどういうことなのか と考えつつ脱衣所に戻ると、そこに彼女の姿は無かった。
廊下に戻ったのかと思い、後を追う。
脱衣所の入り口の段差の脇に、脱いだスリッパをいれる棚があった。
入ってきたときには気づかなかったのだが、その棚の上には先ほど見たのと同じ黒い和服姿の童女の人形が置かれていた。但し、こちらはガラスケースには入れられていなくて、むき出しの状態でこちらを向いて立っている。
(こんな湿気の多いところで大丈夫なのかな?)
と不審に思いながら暖簾をくぐって外に出た。
廊下に出て見回すと、またしても足早に遠ざかっていく彼女の後ろ姿を見つけた。
何事かと気になり、急いでその後を追う。
「どうしたの?」
『彼』が
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