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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十四話 旧友来訪の後始末
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い――少なくともそう願おう」
 豊守は杖をつき、前へと進む。やるべきことは大量にある、彼の息子に水軍が名誉階級を授けたという事実は官房内でも重視されている。つまり厄介な陸水軍間の調整を担当させられているのである。
疲れ切った軍官僚がせめてもの憩いの場へ?がる扉を開けると豊久(やっかいごと)が二人に駆け寄った。
「父上、大辺」

「ん、豊久、今帰った」
「お邪魔します」

「えぇ、待っておりましたよ、父上――やぁ大辺。来て早々で悪いが父上を借りるよ」
 そう言って豊久はまだ軍服も脱いでいない豊守を隅へ引っ張った。
「何だい?また小遣いせびりか?」
「何年前の話しですか!そうではなくて――少々愉しい事をしませんか?」
そして豊久は――にやりと笑った。



同日 午後第六刻半 馬堂家上屋敷 第一書斎(当主私室)
馬堂家新人使用人 石光元一


馬堂家の新人使用人である石光元一は書斎へと通じる扉に手をかけ、体を強ばらせた。
今、この馬堂家当主が執務を行っている書斎の中には馬堂家の中枢を担う二人に、豊久、そして子飼いの参謀が篭っている。
 ――きな臭い、深追いは禁物だと言われたが――
 逡巡していたが、家令頭の辺里に黒茶を持っていくよう言い渡された事でついにこうして内に入り込むになった。
「失礼します。あの、黒茶を――」
「待っていた、入れ」
 屋敷の当主を中心に主筋の三人が安楽椅子に身を沈めている。
「やぁ、石光元一君――これは本名かな?まぁいいや、君が皇室魔導院からの御来客だったとは知らなかったよ。こんな仕事を押し付けられるなんて可哀想に」
 にこにこと親しげに馬堂豊久が言った。
「なっ・・・・」
反射的に後退りすると背後で扉が閉まる音がした。
「・・・・・」
口が乾き、舌が回らない、心臓が早鐘の様に鳴る。
「魔導院も儂の事を忘れたのか、やれやれ、年は取りたくない。」
 逞しい体躯の老人が後退した白っぽい灰色の髪をかき回す。
 ――元憲兵にして駒州公の右腕――馬堂豊長。
「まぁ、こんな御時勢だ。君みたいな輩がくるだろうとは思っていたが、さすがは魔導院、随分と手早いものだ」
 馬堂豊守が素敵な笑みを浮かべてどこか嬉しそうに頷く。熟達した情報将校である堂賀准将の薫陶厚き英雄、馬堂豊久は変わらぬ笑みを浮かべ、黒茶を啜る。
「まさかね、こんなに早く釣れるとは思わなかったよ。
あのさ、ウチの警護班、庭と門を彷徨いているだけだとでも思ってたのかい?」
そう言うと豊久は唇をさらに釣り上げた。

「戦が無いからそれだけで安泰になる程、将家は生き易くは無いのだ。取り分け、馬堂はそうした家だ」
重々しく当主の豊長が告げた。
「さて、石光君、だったな 異議があるのなら言ってみたまえ」

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